小規模事業者持続化補助金(第17回一般型・第1回創業型)の最新採択結果を踏まえた考察
―令和7年度公募における採択率と今後の展望―
1. はじめに
小規模事業者持続化補助金(以下、持続化補助金)は、わが国の中小企業政策において極めて重要な位置を占める制度です。中小企業庁および全国商工会議所を中心に運営される本補助金は、小規模事業者が自らの経営計画に基づき販路開拓や業務効率化を推進する際に必要な経費を支援する仕組みであり、地域経済の活性化や雇用創出に直結するものと評価されています。
令和7年度においては、従来型の「一般型・通常枠」に加えて、新設された「創業型」が注目を集めました。一般型は既存事業者の販路開拓や経営改善を支援するものであるのに対し、創業型は新規創業者や創業間もない事業者を対象としています。この二つの枠組みが同時に公募・審査され、同一時期に採択結果が公表されたことは、補助金制度の運用において大きな節目といえるでしょう。
今回の結果は、**一般型・通常枠の採択率51.06%、創業型の採択率37.93%**という数値に結実しました。本稿では、この結果を詳細に分析し、今後の公募に向けた戦略的示唆を導き出すことを目的とします。
2. 一般型・通常枠(第17回公募)の採択結果
2-1. 公募の経緯
第17回公募は、令和7年3月4日に公募要領が公開され、6月13日をもって申請受付が締め切られました。申請総数は23,365件に達し、そのうち11,928件が採択される結果となりました。採択率は51.06%であり、約2人に1人が採択された計算になります。
2-2. 採択率の評価
採択率が50%を超えたことは、補助金制度全般の中では比較的高い水準に位置付けられます。一般に、国や自治体の補助金制度では採択率が30~40%前後に落ち着くケースが多いです。したがって、持続化補助金・一般型における「2分の1採択」は、申請者にとって追い風となる一方、申請書の完成度や事業計画の説得力が依然として重要であることに変わりはありません。
2-3. 採択事例の特徴
関東エリアの採択者一覧を確認すると、飲食業、小売業、サービス業、製造業など幅広い業種が採択されています。特徴的なのは、以下のような傾向です。
商工会議所地区 一般型・通常枠 採択者
-
デジタル化投資の活用:ECサイト構築、予約管理システムの導入、デジタルマーケティング施策の展開。
-
地域資源を活かした事業:地場産品のブランド化、観光資源との連携による販路開拓。
-
アフターコロナを意識した戦略:非接触型サービス、オンライン販売への移行。
これらは、国が推奨する「DX推進」「地域経済循環」「持続可能性」といった政策目標とも合致しています。
3. 創業型(第1回公募)の採択結果
3-1. 公募の経緯
創業型は令和7年度から新設された枠組みです。公募要領は3月4日に公開され、6月16日に締め切られました。申請総数は3,883件に上り、そのうち1,473件が採択されました。採択率は37.93%と、一般型よりも低い結果となりました。
3-2. 採択率の評価
約4割弱の採択率は、創業期の事業者に対する国の期待と同時に、厳格な審査基準の存在を示しています。創業型では、事業の新規性・実現可能性に加え、地域社会への貢献度や市場ニーズとの適合性が重視されるため、申請者の負担は大きいです。その一方で、採択された事業は成長ポテンシャルが高いと判断されたものが多いです。
3-3. 採択事例の特徴
関東エリアの採択者一覧(r6_saitakukanto_sogyo1.pdf)からは、以下の傾向が確認できます。
-
新分野進出型の事業:既存のスキルを活かしつつ全く新しい市場に挑戦。
-
社会課題解決型の事業:高齢者支援、育児支援、環境問題への対応。
-
デジタルネイティブ型の事業:ITツールの積極的活用、SNSを基盤としたマーケティング戦略。
4. 採択結果の地域別・業種別傾向
全国的な傾向をまとめサイト(r6.jizokukahojokin.info)から参照すると、都市部では競争率が高い一方で、地方部では地域資源を活かした独自性のある事業が強みとなっています。
業種別に見ると、以下のような傾向が浮かび上がります。
-
飲食業:メニューの高付加価値化、ECによる冷凍食品販売。
-
小売業:実店舗とECの融合、インバウンド需要の回復を意識した施策。
-
サービス業:教育、福祉、観光など地域密着型の取り組み。
-
製造業:少量多品種生産、地場産業の高付加価値化。
5. 採択率から見える今後の戦略
採択率の数字から、次のような示唆が得られます。
-
一般型(採択率51%)
-
半数以上が採択されるため、申請書の完成度を高めれば採択可能性は十分にあります。
-
ただし競争も激しく、差別化が不可欠です。
-
-
創業型(採択率38%)
-
新規性や社会的意義を訴求できない事業は不利です。
-
創業期の不確実性をカバーするため、財務計画の裏付けが重要です。
-
-
共通する審査観点
-
地域性、持続性、社会性。
-
単なる販路開拓ではなく、「なぜこの事業が必要か」を論理的に説明する力が求められます。
-
6. 今後の公募に備える実務的アドバイス
-
計画書の論理性を担保する:市場調査やデータを引用し、数値計画に根拠を持たせることが大切です。
-
専門家と連携する:商工会議所、中小企業診断士、金融機関などの支援を活用することで計画の精度が高まります。
-
成功事例から学ぶ:採択事業者一覧を参照し、評価される要素を抽出しましょう。
-
差別化ポイントを明確化する:競合との差別化戦略を盛り込みましょう。
-
ストーリー性を付与する:申請者自身の経歴や地域との関わりを物語として伝えると説得力が増します。
7. まとめ
令和7年度の小規模事業者持続化補助金における採択率は、一般型で51.06%、創業型で37.93%となりました。
この結果は、制度の狙いと審査の厳格さを如実に物語っています。
-
一般型は「約2人に1人」が採択される環境であり、申請書の精度を高めることで採択の可能性は高まります。
-
創業型は「約3人に1人」が採択される狭き門であり、事業の新規性と実現可能性が不可欠です。
今後も補助金を活用して成長を目指す事業者は、採択結果から学び、より説得力のある事業計画を策定する必要があるでしょう。
東京の採択事例とその分析
1. 東京における採択状況の概要
令和7年度の小規模事業者持続化補助金(一般型・通常枠、第17回公募)において、東京都からも多くの事業者が申請し、相当数が採択されました。東京は全国的に見ても事業者数が多く、また産業の多様性が際立つ地域であるため、採択事例も非常にバラエティに富んでいます。飲食業や小売業といった生活に密着した分野から、クリエイティブ産業、先端技術を活用するITサービスまで、幅広い業種が採択されているのが特徴です。
他の地域と比較してみると、東京都の申請者は「都市部ならではの激しい競争環境」を背景に、事業計画に独自性や新規性を盛り込み、審査員に強くアピールしている傾向が見受けられます。地方では「地域資源の活用」が強調される一方、東京では「市場競争を勝ち抜く戦略性」や「デジタル技術の活用」がキーワードとなっている点が印象的です。
2. 採択事例の具体的な傾向
東京都の採択事例を精査すると、大きく以下のようなカテゴリーに整理できます。
(1) 飲食業の新たな展開
コロナ禍を経て、飲食業では依然として厳しい経営環境が続いています。その中で採択された事例の多くは、従来の店舗運営にとどまらず、オンライン販売や宅配サービスを組み合わせたビジネスモデルを構築している点が評価されています。
具体的には、和食店が自社の味を全国に届けるために冷凍食品を開発し、ECサイトを立ち上げた事例、あるいは多国籍料理店が外国人観光客向けのメニューを強化し、インバウンド需要を見据えたプロモーションを展開する事例が見られます。これらの取り組みは、単なる販路拡大にとどまらず、東京という大都市ならではの国際性や多様性を活かした発想が光っています。
(2) 小売業におけるデジタルシフト
小売業の採択事例では、「リアル店舗とECの融合」が目立ちます。例えば、アパレルショップが自社サイトを刷新して顧客データを活用し、オンラインとオフラインの購買体験をシームレスに結びつけたケースがあります。また、地域の専門店がSNSを活用して若年層へのリーチを拡大し、都市部での競合との差別化を図った事例もありました。
東京都は人口が多く、消費者の趣味嗜好も多様であるため、ターゲットを絞ったマーケティング戦略が効果的です。採択事例の中には、特定のサブカルチャーやライフスタイルに特化した商品展開を行い、全国からのファンを獲得している店舗も見られます。こうした戦略は「東京発の文化」を全国に広げる起点となっており、審査でも高く評価されたと考えられます。
(3) サービス業における新需要開拓
サービス業の分野では、教育、福祉、観光関連の事例が数多く見られます。特に注目すべきは、教育サービスの分野です。例えば、プログラミング教育や英語教育など、次世代に求められるスキルを提供するスクール運営者が、オンライン授業の体制を整備し、全国から受講生を募集する取り組みが採択されています。
また、福祉分野では、高齢者の生活支援サービスをオンラインで展開する仕組みや、多文化共生社会に対応した外国人向け生活サポート事業など、社会課題解決型の取り組みが目立ちます。東京は人口密度が高く、多様な人々が生活しているため、こうした「社会的包摂」をテーマにした事業は今後さらに重要性を増していくでしょう。
(4) IT・クリエイティブ産業の躍進
東京都ならではの特色として、クリエイティブ産業やITサービスの事例が豊富に見られます。動画制作会社が最新の編集ソフトを導入して高付加価値のコンテンツを提供するケース、IT企業が中小企業向けに業務効率化アプリを開発・販売するケースなどがあります。
特に、AIやデータ分析を活用したサービスは「成長性」「革新性」が評価され、採択されやすい傾向にあります。東京にはクリエイターやエンジニアが集積しており、その強みを活かした申請は競争力が高いといえます。
3. 東京採択事例の分析
以上の事例を総合すると、東京都の採択案件には以下の特徴が浮かび上がります。
-
多様性と専門性の両立
-
東京都は全国でも事業者数が突出して多く、採択事例も非常に多岐にわたっています。
-
しかし単なる多様性だけではなく、各事業が専門性を磨き込み、競争優位を確立しようとする姿勢が顕著です。
-
-
デジタル技術の積極的導入
-
飲食業や小売業であっても、デジタルツールを活用しなければ生き残れない環境にあります。
-
採択事例でも、EC、SNS、予約システム、AIなどが当たり前のように組み込まれており、他地域に比べてもデジタルシフトの進展が際立っています。
-
-
国際性・多文化性の反映
-
東京は観光地であり、外国人居住者も多いため、インバウンド対応や多言語サービスが採択事例の中で頻繁に見られます。
-
これは地方の事例にはあまり見られない東京ならではの特徴です。
-
-
社会課題解決型の事業
-
高齢化、子育て支援、多文化共生、環境配慮など、現代社会が抱える課題をテーマにした取り組みが増えています。
-
特に「ビジネスと社会性の両立」を掲げる事業は、審査員から高く評価されたと推測されます。
-
4. 今後の展望
東京都の事業者にとって、今後の持続化補助金申請において重要になるのは「競争環境を見据えた差別化戦略」です。採択率自体は全国平均と大きな差はありませんが、都市部では競合が多いため、平凡な計画では埋もれてしまいます。独自の強みを明確にし、デジタルや国際性を組み合わせることで、審査員にとって「納得感のある事業計画」となるでしょう。
さらに、東京都はスタートアップやクリエイティブ産業が集積している地域でもあります。そのため、他地域では見られない先進的な事業モデルが次々と登場する可能性があります。次回以降の公募においても、東京から革新的な採択事例が生まれることは間違いないでしょう。
小規模事業者持続化補助金の申請サポート
壱市コンサルティングでは、中小企業診断士のチームで補助金関係の申請サポートを実施しております。
専門分野をもった、中小企業診断士のメンバーが揃っており、各業界に適した人材が責任をもって担当します。
第18回小規模事業者持続化補助金(一般型)、第2回小規模事業者持続化補助金(創業枠)の申請サポートについても受付をしています。
実際に補助金が活用できる事業の取り組みなのか、どの申請枠で進めれば有利なのか、採択されるポイントはどこなのかなど、アドバイスします。
今後小規模事業者持続化補助金の申請をご検討の方は、是非お問い合わせいただければと思います。