補助金支援は行政書士でなければできない?総務省の正式回答で誤解が解消
――行政書士法改正とグレーゾーン解消制度が明らかにした真実
近年、「行政書士法の改正により、補助金支援は行政書士でなければ行えなくなる」という情報を耳にした方も多いのではないでしょうか。
令和8年(2026年)1月に施行予定の行政書士法改正をきっかけに、このような見解が一部の業界で広まりました。
しかし実際には、改正内容は行政書士の業務範囲を拡大するものではなく、条文整理にとどまるものです。
そのため、従来の法的解釈が変わることはなく、「補助金支援は行政書士でなければ行えない」という主張には法的根拠がありません。
この点を明確にするため、令和7年(2025年)9月、ある企業がグレーゾーン解消制度を活用し、経済産業省を通じて総務省に正式な照会を行いました。
その結果、総務省は令和7年10月10日付で、補助金獲得支援の業務が行政書士法に抵触しないという公式見解を示しました。
行政書士法改正の本質 ―「専権業務」は変わらない
行政書士法は、他人の依頼を受け報酬を得て「官公署に提出する書類」や「権利義務・事実証明に関する書類」を作成することを業とする職域を定めています。
つまり、行政手続きに直接提出される書類の作成・提出代行は、行政書士にしか行えない「専権業務」です。
今回の改正(令和8年施行予定)では、条番号が整理されるのみで、内容そのものは従来と変わりません。
それにもかかわらず、「補助金関連の支援は行政書士の業務に含まれる」といった誤解が生まれたのです。
照会の背景 ― 中小企業の成長を阻む“補助金申請の壁”
補助金・助成金制度は、中小企業の成長を後押しする重要な仕組みです。
しかし、実際には多くの中小企業が制度の複雑さや申請手続きの煩雑さを理由に、活用を諦めている現状があります。
この課題を解決するため、照会者は「補助金活用型経営コンサルティング」という新サービスを企画しました。
その内容は、補助金制度の調査、市場分析、経営課題の整理、収益計画の作成支援などを通じて、事業者が自ら質の高い事業計画を策定できるよう支援するものです。
ここでポイントとなるのは、コンサルティングの目的が「書類の作成代行」ではないという点です。
事業者自身が最終的な申請書を作成・提出する前提で、専門的な助言や分析資料を提供する――それがこのサービスの中心です。
照会の内容 ― 行政書士法との関係を明確にするために
令和7年9月30日、産業競争力強化法第7条に基づき、経済産業大臣および総務大臣宛に「新事業活動に関する規制の解釈についての照会書」が提出されました。
その中で、以下の点が確認事項として挙げられています。
当社の新事業活動は、行政書士法が禁じる「作成することを業とする」ものに該当せず、同法に抵触しないことを確認したい。
照会者の立場としては、次のような論点が整理されていました。
-
主目的は経営コンサルティングであり、書類作成代行ではない
-
提供する成果物は調査・分析資料であり、申請書そのものではない
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事業者自身が申請書を作成・提出することを前提とする
これらを踏まえ、行政書士法に抵触しないことを正式に確認したい、という趣旨で照会が行われました。
総務省の回答 ― 「行政書士法に抵触しない」と明言
令和7年10月10日付で総務省から回答が出されました。
その要旨は次の通りです。
顧客が官公署に提出する書類を作成するために、
個別に「今後の収益計画および調査結果をまとめた資料を作成・提供」する行為は、
行政書士法第1条の2第1項に規定する「書類の作成」には該当しない。
つまり、補助金支援に関するコンサルティング業務は、行政書士法上の「作成行為」には当たらないという明確な判断です。
ただし、同時に次のような注意喚起もなされています。
官公署に提出する書類の作成は、顧客本人または行政書士(行政書士法人)に限られるため、
顧客にその点を周知するように留意されたい。
この指摘は、行政書士の職域を尊重しながらも、経営コンサルティングの自由な活動を認めるという、極めてバランスの取れた見解といえます。
今回の回答がもたらす意義
今回の総務省回答は、業界にとって極めて大きな意味を持ちます。
1. 中小企業支援の新たな一歩
中小企業診断士やコンサルタントが補助金支援を行うことの法的根拠が明確になり、
安心して事業を展開できる環境が整いました。
2. 行政書士とコンサルタントの業務領域が明確化
行政書士は「申請書の作成・提出」、コンサルタントは「経営分析・計画策定支援」と役割分担が整理され、相互補完的な関係が築かれやすくなりました。
3. 事業者にとっての選択肢が広がる
これまで法的リスクを懸念して外部支援を受けづらかった中小企業も、
安心して専門的な経営支援を受けられるようになります。
グレーゾーン解消制度の重要性
今回のケースは、「グレーゾーン解消制度」が持つ意義を改めて浮き彫りにしました。
この制度は、事業者が新しい取り組みを行う際、法律の適用範囲が不明確な場合に、事前に行政の公式見解を得ることができる仕組みです。
法令の「グレーゾーン」を明確にし、事業者が安心して新事業を展開できるようにする――
まさに今回の照会は、この制度の理想的な活用例といえるでしょう。
まとめ ― 補助金支援の未来に向けて
今回の総務省による回答は、
「補助金支援=行政書士でなければ行えない」という誤解を完全に払拭する内容でした。
中小企業診断士やコンサルタントは、補助金制度を活用した経営支援を、
法的に問題なく有償で行うことができます。
一方で、官公署への提出書類の作成そのものは行政書士の専権業務であり、
両者がそれぞれの専門性を活かしながら協働することが、今後ますます求められるでしょう。
この明確な線引きが、補助金支援の質を高め、
中小企業の持続的成長を支える新たなステージを切り開くきっかけとなるはずです。
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