はじめに
2025年10月1日、中小企業基盤整備機構(SMRJ)より「新事業進出補助金」の第1回公募に関する採択結果が公表されました。本補助金は、国内中小企業の新分野展開や事業再構築を後押しする目的で創設された制度であり、製造業・サービス業・農林水産業など幅広い業種が対象です。
今回は全国から3,006件の応募があり、そのうち1,118件が採択されました。採択率はおよそ37%であり、厳しい選考を経て多様な事業計画が支援対象となったことがわかります。
本記事では、
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応募・採択の全体傾向
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業種別・地域別の特徴
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補助金申請額の分布と採択傾向
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採択事例の具体紹介(北海道・東北・関東)
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今後の展望と企業への示唆
の5つの視点から徹底的に解説していきます。
1. 応募・採択の全体傾向
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応募件数:3,006件
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採択件数:1,118件(採択率 約37%)
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関税加点対象:590件
応募数は全国規模で均等に分布しているわけではなく、やはり大都市圏や産業集積地域からの応募が目立ちます。特に東京都・大阪府・愛知県といった主要都市圏からの採択数は多く、都市型産業と地方創生型の両面で活用されていることが浮き彫りとなりました。
2. 業種別の採択動向
応募・採択の分布を業種別に見ると、以下のような特徴が明らかです:
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製造業:最も応募が多く、採択件数も最大。既存の製造基盤を活かした新事業進出が活発。
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卸売業・小売業:次に多く、特産品販売やEC事業への展開が目立つ。
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建設業:再生可能エネルギー関連や解体・リサイクル分野での新規計画が増加。
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宿泊業・飲食サービス業:インバウンド需要や地域資源を活かした観光型ビジネスが注目。
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情報通信業:AI・DXを活用した新サービス開発案件が急増。
特に、DX・GX(脱炭素化)といった社会的課題に直結する分野が強く評価された点は今後の補助金採択傾向を占う上で重要です。
3. 地域別の採択状況
都道府県別の内訳をみると:
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東京都:応募571件 → 採択199件
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大阪府:応募313件 → 採択118件
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愛知県:応募208件 → 採択83件
都市部は母数が多い分採択件数も突出しています。一方で、北海道・東北・九州の地方圏でも特色ある事業が数多く採択されており、地域資源を活用した観光・農産品ブランド化事業が目立ちました。
4. 補助金申請額の分布
補助金の申請額帯では:
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2,000万~2,500万円未満:763件で最多
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1,000万~1,500万円未満:510件
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500万~1,000万円未満:397件
申請規模はやや大口寄りで、特に設備投資や新拠点整備といった事業に活用される傾向が読み取れます。
5. 採択事例の具体紹介
北海道の事例
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札幌市豊平区:「えりも町の恵みを豊洲へ!大卸向け大規模卸売事業」
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上ノ国町:「アンフォラ醸造×CO₂活用型ドライアイス製造事業」
→ 北海道では、水産物ブランド化や食品加工に関する案件が多数。地産地消から全国展開まで幅広く支援。
東北の事例
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岩手県一関市:「足場・鉄骨エキスパートによる次世代解体推進計画」
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宮城県岩沼市:「食の体験型施設と冷凍カレー事業の展開」
→ 東北では、建設業の高度化や食文化を活かした観光型事業が目立ちます。震災後の復興文脈とも親和性が高い分野。
関東の事例
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埼玉県川越市:「国産農産物を使用したジェラートの製造販売」
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東京都千代田区:「広告業界向けAI動画生成支援サービス」
→ 関東はやはり製造・IT・観光サービスの多様な事例が多く、全国の採択傾向を牽引。
6. 今後の展望と企業への示唆
今回の採択結果から導き出されるポイントは以下です:
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デジタル・AI関連事業は高評価
→ 情報通信業、教育支援、AI活用サービスが続々採択。 -
GX・カーボンニュートラル関連事業が躍進
→ リサイクル、バイオマス、低炭素コンクリートなど、脱炭素技術が次世代投資の中心に。 -
地域資源を活かした観光・食文化事業が根強い
→ 「地域ブランド化+体験型サービス」の組み合わせが成功パターン。 -
中小企業の挑戦意欲が顕著
→ 採択率37%という競争の中でも、多くの企業が新分野に踏み出している。
まとめ
新事業進出補助金の第1回採択結果は、全国1,118件の中小企業による多様な挑戦の縮図でした。AI・GXといった先端分野から、地域食材や観光資源を活かした事業まで、補助金が中小企業の未来戦略を後押ししていることが明確です。
今後、次回公募や追加枠が設定される可能性も高く、今回の採択傾向を参考にした事業計画の立案が有効となるでしょう。
壱市コンサルティングも、皆さまの新事業への挑戦を全力でサポートいたします。
まずは情報整理と早めの準備を――それが採択への最短ルートです。
新事業進出補助金・都道府県別の詳細採択事例まとめ
— 第1回公募(2025年10月1日公表)—
総論(全体像)
全国からの応募は3,006件。そのうち採択されたのは1,118件で、採択率は約37%でした。関税加点対象は590件に上ります。
都道府県別では、東京都・大阪府・愛知県が応募・採択ともに多く、都市部の強さが光りました。一方で、地方圏にも特色ある案件が広く分布している点も見逃せません。
また、申請額の分布を見ると「2,000万~2,500万円」の帯が最多で、設備投資や拠点整備など、スケールの大きな新分野進出が目立ちました。
今回の採択全体のトレンドは、大きく「AI/DX(業務自動化・SaaS・アルゴリズム)」「GX/循環経済(再エネ、低炭素、資源循環)」「観光×地域資源(インバウンド・食文化・体験型)」の三つに整理できます。
北海道ブロック
北海道
キーワード:水産×高付加価値化/観光体験/地域ブランドの再編集
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A社(札幌市):「地場水産資源を全国市場に展開する卸売事業」
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B社(上ノ国町):「醸造とCO₂利活用を結合させた新規事業」
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C牧場(厚岸町):「畜産資源を活かした乳製品製造事業」
所見:水産や畜産といった一次産品を、中食・外食・EC・観光へと多面的に接続。一次資源の「体験・物語化」と、物流・加工・小売を組み合わせる戦略が共通しています。
東北ブロック
青森県
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D社(青森市):「宿泊と体験を融合した複合モデルの開発」
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E社(八戸市):「食品副産物を活用したアップサイクル型食サービス」
所見:観光需要の再活性と食品アップサイクルが両輪。滞在価値の編集や「食×健康」の融合がポイントです。
岩手県
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F社(一関市):「建設技術を活用した次世代解体事業」
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G社(平泉町):「精密部品製造への新規参入」
所見:解体・再生・更新と精密加工の二層構造。地域の重厚長大型スキルに自動化や高精度の要素を上乗せしています。
宮城県
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H社(岩沼市):「体験型食施設と冷凍食品の展開」
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I社(石巻市):「データ活用による水産加工品の開発」
所見:体験型施設と冷凍食品による安定収益の組み合わせに加え、データ活用による品質向上。震災復興以降の「産業観光」の深化が感じられます。
秋田県
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J社(男鹿市):「地域ブランド菓子への横展開」
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K社(横手市):「木質バイオマスによる持続可能エネルギー供給」
所見:レガシーブランドの再解釈と、バイオマス活用によるエネルギー転換。通年で収益を確保する設計が特徴です。
山形県
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L社(鶴岡市):「高精度部品製造ラインの構築」
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M社(上山市):「既存設備を活用した高付加価値加工」
所見:精密化・専用化への投資で、ニッチかつ高難度領域へシフト。中小でもトップを狙える戦略です。
福島県
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N社(郡山市):「車載用電池のリサイクル」
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O社(郡山市):「フィルム加工技術を活かした半導体部品事業」
所見:EVや半導体と連動する循環・素材シフト。福島は「再生と先端」が交差する地域性が際立っています。
関東ブロック
茨城県
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P社(水戸市):「低炭素コンクリート製品の開発」
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Q社(日立市):「防衛装備部品の高精度加工」
所見:低炭素材料と高精度加工の両輪。資源循環の芽も複数見られます。
栃木県
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R社(宇都宮市):「省エネ建築対応鉄骨の製造」
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S社(足利市):「大型機械導入による土木工事への参入」
所見:ZEBや土木更新領域への装備投資が目立ち、都市再生需要と連動しています。
群馬県
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T社(高崎市):「CFRPのリサイクルによる再生材供給」
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U社(高崎市):「災害対応ユニットの開発・製造」
所見:先端素材の再資源化と、防災・減災への装置化。観光分野の再編集も進んでいます。
埼玉県
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V社(川口市):「精密研磨による宇宙関連部品の製造」
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W社(戸田市):「低CO₂代替燃料の開発」
所見:精密加工と代替燃料開発という、産業からエネルギーまで広い挑戦が特徴。
千葉県
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X社(千葉市):「ドローンによるインフラ調査サービス」
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Y社(銚子市):「水産物を活用した加工販売事業」
所見:社会インフラ保全のDX化と、水産中食の垂直統合が二大軸。
東京都
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Z社(千代田区):「広告業界向けAI動画生成支援サービス」
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AA社(中央区):「AI検査装置とクラウドサービス」
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AB社(港区):「購買データ解析による健康リスク可視化アプリ」
所見:産業横断のAI応用が突出。B2Bの中枢業務に直結する「置換型サービス」が多く見られます。東京都は応募571件・採択199件で全国最多級のボリュームを誇ります。
中部・近畿・中国・四国・九州(所感)
中部・近畿は応募・採択ともに多く、愛知は自動車バリューチェーン、大阪は都市再生や建設・サービスが中心。中国・四国・九州は農水産の高付加価値化や観光×体験型事業が強調されました。
テーマ横断の示唆(企業側の戦略指針)
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AIは中枢業務へ:検査・制作・コールセンターなど、核となる業務の置換が進む。
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GXは装置化・素材化で稼ぐ:低炭素コンクリートやRPF燃料、CFRPリサイクルなど、収益接点は明確。
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観光は体験×加工×直販:体験施設+冷凍・ECで通年収益を実現。
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既存設備の精密化・専用化:ニッチトップを狙える領域へのシフトが採択傾向。
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公共インフラのDX化:点検×ドローン×データの組合せが拡張している。
申請額レンジと投資設計
最多は「2,000万~2,500万円」。装置・ライン・拠点・IT基盤の複合投資が目立ちます。設備やシステム単体では弱く、**市場接続(販売モデル)**を組み込んだ三位一体の計画が重要です。
県別・計画立案のヒント
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北海道/東北:一次資源の物語化+冷凍・EC。観光は体験と回遊設計を。
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関東:B2B AI/DXは業務置換型に特化。実証と料金設計を重視。
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中部:自動車・半導体連動の精密加工や素材高度化。品質保証が鍵。
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近畿:都市更新にZEB・省エネを組み合わせ、解体・点検・更新をつなぐ。
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中国・四国・九州:一次産業の高付加価値化と観光・物流。中食や宅配で通年化を図る。
まとめ
第1回新事業進出補助金の採択結果から見える構図は、AI/DX、GX、観光体験の三本柱に、精密加工や点検DXが横断する形でした。地域ごとの強みを異分野と接続し、新しい事業を設計する力が重視されています。
次の一手を考える際には、
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装置・人材・データ・販路を束ねた統合計画
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収益モデル(価格×数量×回転)の現実性
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公共調達・サプライチェーンとの接続
これらを丁寧に織り込むことが、採択への近道となるでしょう。
壱市コンサルティングも、皆さまの新事業への挑戦を全力でサポートいたします。
まずは情報整理と早めの準備を――それが採択への最短ルートです。