【令和8年(2026年)最新】企業価値担保権の融資実行事例まとめ|老舗製造業・再生型M&A・スタートアップまで先行事例を徹底分析

令和8年(2026年)5月25日、「事業性融資の推進等に関する法律(事業性融資推進法)」が施行され、無形資産を含む事業全体を担保とする新しい担保制度「企業価値担保権」が正式にスタートしました。施行からわずか2週間で、福井銀行・商工中金・筑邦銀行・清水銀行・東邦銀行など、全国の金融機関から融資実行事例が相次いで公表されています。

注目すべきは、その活用先の幅広さです。創業110年を超える老舗製造業への運転資金、債務超過企業を買収する再生型M&A資金、スタートアップへの成長資金まで、当初想定されていた「スタートアップ向け制度」というイメージを大きく超える実行事例が出てきています。金融担当大臣も施行直前の会見で、20の金融機関から延べ26件の取り組み予定の報告を受けていると述べており、活用の裾野は今後さらに広がる見通しです。

本記事では、令和8年(2026年)6月時点で公表されている企業価値担保権の融資実行事例を整理し、事例から見える活用パターンと、中小企業経営者が押さえるべき実務ポイントを分析します。資金調達を検討中の経営者の方はもちろん、金融機関や士業など支援者側の方にも参考になります。

企業価値担保権とは|制度のおさらい

企業価値担保権は、令和6年(2024年)6月に成立した事業性融資推進法に基づき創設された新しい担保制度です。不動産などの有形資産だけでなく、技術・ノウハウ・ブランド力・顧客基盤といった無形資産や、事業が将来生み出すキャッシュフローを含む「事業の総財産」を一括で担保にできる点が最大の特徴です。

従来の不動産担保や経営者保証に依存した融資慣行を是正し、事業の実態と将来性に着目した「事業性融資」を推進することが制度の目的です。担保権の設定には、債務者を委託者、企業価値担保権信託会社(金融機関が免許を取得して担保権者となることも可能)を受託者とする信託契約を用いる仕組みが採用されています。

項目 内容
根拠法 事業性融資の推進等に関する法律(令和6年(2024年)6月成立)
施行日 令和8年(2026年)5月25日
担保の対象 有形資産+無形資産(技術・ノウハウ・顧客基盤等)+将来キャッシュフローを含む総財産
設定方法 企業価値担保権信託契約(債務者=委託者、信託会社等=受託者)
主な狙い 不動産担保・経営者保証に依存しない事業性融資の推進、金融機関による伴走支援の強化

制度概要の詳細は前回の記事で解説していますので、本記事では「実際にどのような企業に、どのような目的で使われ始めたか」という実行事例の分析に焦点を当てます。

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福井銀行×商工中金|創業110年超の老舗製造業への協調融資

制度施行初日の令和8年(2026年)5月25日、福井銀行は商工中金と協調し、ケイテー株式会社(福井県勝山市)に対して企業価値担保権を活用した融資を実行したと公表しました。制度開始と同日の実行であり、企業価値担保権の「第一号案件」のひとつとして大きな注目を集めた事例です。

融資先企業と実行概要

項目 内容
融資先 ケイテー株式会社(福井県勝山市)
企業概要 1910年創業/資本金3,000万円/アパレル・生活資材・自動車内装向け合繊織物の製造業
資金使途 経常的に必要な運転資金等。資金調達構造の適正化と、将来の成長投資に向けた経営基盤の強化
融資額 商工中金:1億3,500万円+2億円の融資枠開設/福井銀行:非公表
評価された強み 業歴110年超の中で培った「一貫生産体制」と「独自の織繊技術」

この事例が示す重要なメッセージ

企業価値担保権の活用先として、有形資産の乏しいスタートアップ企業をイメージする方は少なくありません。しかし第一号案件のひとつとなったのは、創業100年を超える老舗製造業でした。

POINT
企業価値担保権は「新しいビジネスモデルの会社」だけの制度ではありません。長年の事業活動で培った技術・ノウハウ・生産体制・取引基盤を持つ伝統的な中小企業にも活用できることが、制度開始初日の事例によって示されました。自社に不動産がなくても、事業そのものに評価できる価値があれば対象になり得ます。

また、政府系金融機関との協調融資という形態も注目点です。同様の例として、第四北越銀行と日本政策金融公庫(中小企業事業)が、建材販売・施工、精密プラスチック部品製造、ITソリューション、金属・木材加工を営む株式会社丸互へ企業価値担保権を活用した融資を実行しています。同社は1953年に製材所として創立し、地域の複合企業として歩んできた会社で、資金使途はやはり運転資金です。「地域銀行×政府系金融機関の協調」「老舗企業の運転資金」という組み合わせは、企業価値担保権活用の一つの典型パターンになると整理されます。

筑邦銀行|債務超過企業を対象とした再生型M&A資金

福井銀行の事例が「伝統企業の運転資金」だとすれば、筑邦銀行の事例は企業価値担保権の可能性をさらに大きく広げるものです。筑邦銀行は、再生型M&Aの買収資金として企業価値担保権を活用した融資を実行しました。

事例の構造

項目 内容
融資・担保設定先 福岡市で教育・福祉事業を展開する上場企業の創業家の資産管理会社(事業売上なし、株式以外の資産なし)
資金使途 介護関連企業(債務超過)の買収資金
融資額 約3億円
返済期間 3年
銀行の関与 事業計画や返済方法を融資先と一緒に策定し、介護関連事業の成長を伴走的に支援

この事例の注目点は、従来の与信判断の常識からすれば極めてハードルの高い案件である点です。融資先は事業収入も資産も持たない資産管理会社であり、買収対象の介護関連会社は債務超過でした。それでも筑邦銀行は、買収対象会社が将来生み出すキャッシュフローに着目して融資を実行しています。

補足
筑邦銀行は以前からABL(動産・債権担保融資)に注力してきた金融機関であり、「形のない資産・将来価値を評価する」というノウハウの蓄積が、企業価値担保権の早期活用につながったと理解するのが実態に近い見方です。金融機関側の目利き力・評価体制の有無が、この制度の活用度合いを左右することを示唆する事例です。

不動産担保・経営者保証を前提とした従来型融資では成立しにくかった再生型M&A・事業承継型の資金調達が、企業価値担保権によって現実の選択肢になった点は、後継者不足や事業再生に直面する中小企業にとってきわめて大きな意味を持ちます。

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全国に広がる実行事例|業種・規模・目的の多様化

上記の他にも、施行から短期間で全国の地域金融機関から実行・設定事例が公表されています。公表ベースの主な事例を一覧で整理します。

金融機関 対象企業・業種 ポイント
清水銀行 小泉チップ工業株式会社(静岡市)/木くずを木材チップ・製紙原料に再生するリサイクル事業 事業拡大の余地に着目し、成長性・将来キャッシュフローを評価。融資額1,000万円
東邦銀行 Kokage株式会社(福島県)/クラフトジン蒸留所「naturadistill川内村蒸溜所」運営 銀行と企業が共同で5年計画を策定。月間生産1,000本→3,000本への増産計画を立て、販路別売上・在庫をKPI管理(融資額・期間は非公表)
武蔵野銀行 建築資材卸売業 企業価値担保権を設定
埼玉りそな銀行 塗装業界特化型クラウドサービス提供企業 無形資産中心のIT企業への設定例
西京銀行 先進的な農業を展開するスタートアップ 制度が当初想定するスタートアップ型の活用例
北洋銀行 旅館運営会社 観光・宿泊業への設定例(融資額は非公表)

東邦銀行の事例は、企業価値担保権が単なる「担保の差し替え」ではないことを端的に示しています。銀行と企業が一緒に5年計画を策定し、生産量・販路別売上・在庫をKPIとして共有・管理していくという運用は、まさに制度が目指す「金融機関による伴走支援」の具体像です。担保が事業全体である以上、金融機関は融資先の事業の中身に深く関与し続けることになります。

事例から見える活用パターンと実務ポイント

浮かび上がる4つの活用パターン

施行直後の事例群を俯瞰すると、企業価値担保権の活用は次の4パターンに整理されます。

活用パターン 該当事例
① 老舗・伝統企業の資金調達構造の適正化(運転資金) 福井銀行×商工中金(ケイテー)、第四北越銀行×日本政策金融公庫(丸互)
② 再生型M&A・事業承継の買収資金 筑邦銀行(債務超過の介護関連会社の買収)
③ 成長投資・増産計画への成長資金 清水銀行(リサイクル事業)、東邦銀行(クラフトジン増産)
④ スタートアップ・無形資産型企業への融資 西京銀行(農業スタートアップ)、埼玉りそな銀行(クラウドサービス)

経営者が押さえるべき実務ポイント

事例分析から導かれる、企業価値担保権の活用を検討する際の実務ポイントは次の3点です。

第一に、将来キャッシュフローを説明できる事業計画が融資審査の中核になるという点です。担保が「事業の将来価値」である以上、金融機関は事業計画の実現可能性を従来以上に厳しく見ます。東邦銀行の事例のように、KPIまで落とし込んだ計画の共同策定が標準的な運用になると認識する必要があります。

第二に、融資後のモニタリング・予実管理への対応体制が不可欠という点です。企業価値担保権による融資は「借りて終わり」ではなく、金融機関との継続的な情報共有・伴走関係が前提です。月次の試算表整備や予実差異の説明など、管理会計の基礎体力が問われます。

第三に、金融機関ごとに取り組み姿勢・評価ノウハウに差があるという点です。筑邦銀行のようにABLの経験を活かして踏み込んだ案件に取り組む銀行もあれば、まだ様子見の金融機関もあります。自社のメインバンクの方針を把握したうえで、必要に応じて協調融資や政府系金融機関の活用も視野に入れた金融機関戦略を立てることが賢明です。

注意
企業価値担保権は事業の総財産に担保が及ぶ制度です。経営者保証や不動産担保から解放される一方、事業全体が担保に入るため、事業計画が大きく未達となった場合の影響は従来以上に経営全体に及びます。導入の検討にあたっては、実現可能性の高い計画策定と、計画未達時の対応シナリオまで含めて冷静にご判断ください。

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まとめ|企業価値担保権の実行事例から押さえるべき5つのポイント

ポイント 内容
① 施行初日から実行事例が続出 令和8年(2026年)5月25日の施行と同日に福井銀行×商工中金の協調融資が実行。金融担当大臣の会見では20金融機関・延べ26件の取り組み予定が報告されており、活用は急速に広がっています。
② 対象はスタートアップに限らない 第一号案件のひとつは創業110年超の老舗織物製造業。長年培った技術・生産体制・取引基盤を持つ伝統的中小企業も、企業価値担保権の有力な活用主体です。
③ 再生型M&Aにも活用可能 筑邦銀行は債務超過企業の買収資金約3億円を、買収対象会社の将来キャッシュフロー評価により実行。事業承継・再生局面の資金調達手段として現実の選択肢になりました。
④ 伴走支援・KPI管理が前提 東邦銀行の事例では銀行と企業が5年計画を共同策定し、生産量・販路別売上・在庫をKPI管理。融資後の継続的なモニタリング対応が制度活用の前提条件です。
⑤ 事業計画と管理会計が成否を分ける 担保は「事業の将来価値」。実現可能性の高い事業計画の策定力と、予実管理を回す管理体制の有無が、企業価値担保権を活用できるかどうかの分岐点になります。

企業価値担保権に関するQ&A

Q1.企業価値担保権はどのような企業が利用できますか?

A1.業種・業歴を問わず、事業の将来価値を評価できる企業が広く対象になります。実際の事例を見ると、創業110年超の織物製造業(ケイテー株式会社)、リサイクル事業、クラフトジン蒸留所、建築資材卸、クラウドサービス、農業スタートアップ、旅館業まできわめて多様です。共通するのは、不動産の有無ではなく、技術・ノウハウ・顧客基盤・成長余地といった「事業そのものの価値」を金融機関に説明できる点です。逆に、将来キャッシュフローの見通しを示せない企業は、制度上は対象でも実務上は活用が難しいと認識する必要があります。

Q2.従来の不動産担保融資や経営者保証付き融資と何が違いますか?

A2.担保の対象が根本的に異なります。従来型は不動産等の有形資産や経営者個人の保証を裏付けとするのに対し、企業価値担保権は無形資産と将来キャッシュフローを含む事業の総財産を一括で担保化します。この違いにより、不動産を持たない企業や、経営者保証を避けたい事業承継局面でも資金調達の道が開けます。一方で、金融機関は担保価値=事業価値を維持・把握するため、融資後も事業内容への関与を深めます。「担保を入れて終わり」ではなく「金融機関との伴走関係が始まる」融資であるという点が、実務上の最大の違いです。

Q3.債務超過の企業でも利用できる可能性はありますか?

A3.可能性はあります。筑邦銀行の事例では、買収対象の介護関連会社が債務超過であったにもかかわらず、同社の将来キャッシュフローを評価して約3億円の買収資金が実行されました。過去の財務状況(貸借対照表)ではなく、将来の収益力(キャッシュフロー)で評価するのが企業価値担保権の本質です。ただし、債務超過企業の場合は再生計画・改善計画の説得力がきわめて重要になり、金融機関側にも高度な目利き力が求められるため、実行できる金融機関は限られます。事業再生に強い専門家の関与を得ながら、計画の質を高めることが現実的な進め方です。

Q4.M&Aや事業承継の資金にも使えますか?

A4.使えます。筑邦銀行の事例は、まさに再生型M&Aの買収資金(約3億円・返済期間3年)として企業価値担保権を活用したものです。従来、M&A資金の調達では買い手側の資産背景や保証が重視されがちでしたが、企業価値担保権を使えば買収対象事業が生み出す将来キャッシュフローを裏付けに資金調達する構成が可能になります。後継者不在企業の第三者承継や、グループ再編に伴う株式取得など、中小企業のM&A実務における資金調達の選択肢が大きく広がったと整理されます。

Q5.融資額や返済期間の相場はどのくらいですか?

A5.現時点で「相場」と呼べる水準は形成されていませんが、公表事例では融資額に大きな幅があります。清水銀行の1,000万円から、商工中金の1億3,500万円+2億円の融資枠、筑邦銀行の約3億円まで、企業規模・資金使途に応じて柔軟に設定されているのが実態です。返済期間も筑邦銀行の事例では3年と公表されていますが、非公表の事例も多くあります。重要なのは金額の多寡ではなく、事業計画上のキャッシュフローと返済計画の整合性です。自社の計画に対して無理のない調達規模を設計することが第一歩になります。

Q6.どの金融機関に相談すればよいですか?

A6.まずはメインバンクへの相談が基本ですが、金融機関ごとに取り組み姿勢に差がある点に注意が必要です。公表事例だけでも福井銀行、商工中金、第四北越銀行、日本政策金融公庫、筑邦銀行、清水銀行、東邦銀行、武蔵野銀行、埼玉りそな銀行、西京銀行、北洋銀行と、地域銀行から政府系金融機関まで幅広い実行主体が確認できます。地域銀行と政府系金融機関の協調融資(福井銀行×商工中金、第四北越銀行×日本政策金融公庫)は一つの典型パターンであり、メインバンク単独で難しい場合も、協調スキームの提案により実現する余地があります。認定経営革新等支援機関などの専門家を通じて金融機関との対話を設計することも有効です。

Q7.申請にあたって何を準備すればよいですか?

A7.中核となるのは将来キャッシュフローを定量的に示した事業計画です。東邦銀行の事例では、銀行と企業が共同で5年計画を策定し、月間生産本数(1,000本→3,000本)や販路別売上・在庫といったKPIまで設定しています。これが企業価値担保権における計画の標準像と考えるべきです。加えて、自社の強み(技術・ノウハウ・顧客基盤)を裏付ける資料、直近の決算書・試算表、資金繰り表など、事業の実態を示す資料一式の整備が必要です。月次で予実を管理できる体制が整っていない場合は、申請準備と並行して管理会計の仕組みづくりから着手することが賢明です。

Q8.融資実行後はどのような対応が求められますか?

A8.継続的なモニタリングへの対応が求められます。担保が事業全体である以上、金融機関は事業の状況を定期的に把握する必要があり、月次・四半期での業績報告、KPIの進捗共有、予実差異の説明などが実務上の標準になると見込まれます。筑邦銀行の事例でも、銀行が事業計画や返済方法を一緒に考え、事業の成長を伴走的に支援していくと公表されています。これを「負担」と捉えるか「経営力強化の機会」と捉えるかで、制度活用の成果は大きく変わります。金融機関との定期対話を経営改善のPDCAに組み込む発想が重要です。

Q9.メインバンクに相談しても前向きな反応が得られない場合はどうすればよいですか?

A9.金融機関ごとに制度への習熟度・体制整備の進み具合には差があるため、一行の反応だけで諦める必要はありません。対応策は3つあります。第一に、政府系金融機関(商工中金・日本政策金融公庫)との協調スキームを打診すること。公表事例でも地域銀行×政府系の協調が複数確認されています。第二に、ABLや事業性評価融資に実績のある金融機関に相談先を広げること。第三に、断られた理由を分析することです。多くの場合、問題は制度ではなく事業計画の説得力にあります。計画の数値根拠やKPI設計を専門家とともに磨き直したうえで再打診することが、結果的に最短ルートになるケースが少なくありません。

Q10.企業価値担保権を活用するうえで、経営者として最も意識すべきことは何ですか?

A10.「事業の将来価値を自ら説明できる経営」への転換です。企業価値担保権の本質は、担保の形が変わったことではなく、融資の評価軸が「過去の資産」から「将来の事業」へ移ったことにあります。つまり、実現可能性の高い事業計画を描き、KPIで進捗を管理し、金融機関と対話し続ける経営体制そのものが、資金調達力に直結する時代になったということです。施行直後の事例群は、老舗企業からスタートアップ、再生案件まで、この評価軸の転換がすでに実務で動き始めていることを示しています。早い段階で計画策定と予実管理の体制を整えることが賢明です。

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