【令和8年10月改定】最低賃金1,177円時代の中小企業経営|47都道府県一覧・推移・補助金の賃上げ要件と今後の予測

令和8年(2026年)9月3日、厚生労働省は全47都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されたことを公表しました。答申段階の全国加重平均は1,177円、前年度からの引上げ額は56円です。この56円という引上げ幅は、昭和53年度(1978年度)に目安制度が始まって以降で2番目の高さにあたります。改定額は令和8年(2026年)10月1日から12月2日までの間に、都道府県ごとに順次発効する予定です。

最低賃金の上昇は、パート・アルバイトの時給が上がるという話にとどまりません。近年の中小企業向け補助金は、ほぼ例外なく「事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円以上高い水準に保つこと」を交付の条件に据えています。地域別最低賃金が毎年50円を超えて上がるということは、補助金を受給した企業が3〜5年にわたって背負う賃金の下限も、同じ幅で自動的に切り上がることを意味します。

さらに政府は、「全国平均1,500円」という目標の達成時期を「2020年代」から「遅くとも2030年代前半のできる限り早期」へと改めました。目標時期の後ろ倒しは、引上げの終了を意味しません。むしろ、年50円前後の引上げがこの先5年から7年続くことが、政策の前提として織り込まれた状態にあると理解するのが実態に近い見方です。

本記事では、令和8年度(2026年度)の47都道府県別の改定額と発効日を一覧で整理したうえで、最低賃金がたどってきた推移、補助金制度が「賃上げ前提」へ組み替えられてきた構造、そして今後の水準と制度設計の見通しを客観的に整理します。

Contents
  1. 令和8年度の地域別最低賃金改定の全体像
  2. 47都道府県別 最低賃金と発効日の全国一覧
  3. 最低賃金はどのように推移してきたか
  4. 補助金はなぜ「賃上げ前提」になったのか
  5. 賃上げの原資を確保するために使える施策
  6. 最低賃金は今後どこまで上がるのか
  7. 経営者が今のうちに着手すべきこと
  8. まとめ
  9. よくあるご質問
  10. 賃上げを前提とした経営計画づくりをご支援します

令和8年度の地域別最低賃金改定の全体像

全国加重平均1,177円・引上げ額56円の意味

令和8年(2026年)7月28日、中央最低賃金審議会は令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安について答申を取りまとめました。示された目安はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円で、目安どおりに改定された場合の全国加重平均は1,176円、上昇額は55円、引上げ率は4.9%と見込まれていました。

その後、各都道府県の地方最低賃金審議会での調査審議を経て、9月3日に沖縄県の答申をもって全47都道府県の改定額が出そろいました。答申された改定額の全国加重平均は1,177円で、目安を1円上回る56円の引上げとなりました。引上げ率にすると約5.0%です。

前年度である令和7年度(2025年度)の引上げ額66円は、目安制度開始以降で過去最大でした。今年度の56円はそれを10円下回りますが、それでも歴代2位の水準です。「引上げ幅が縮小した」という報道の見出しだけを見て負担が軽くなったと判断するのは、実態を取り違える危険があります。2年間の累計で122円、率にして11.6%の引上げが最低賃金水準の労働者に対して行われた、というのが事業者から見た現実です。

引上げ額は54円から65円まで分散した

厚生労働省の公表によれば、47都道府県の引上げ額は54円から65円までの幅に分布しました。内訳は次のとおりです。

引上げ額 該当数 主な都道府県
65円 1県 佐賀
64円 1県 鹿児島
63円 2県 高知・沖縄
62円 2県 茨城・宮崎
61円 4県 青森・福島・山梨・大分
60円 4県 宮城・山形・鳥取・愛媛
59円 5県 岩手・秋田・石川・福井・島根
58円 4府県 新潟・京都・山口・熊本
57円 7県 栃木・群馬・富山・静岡・岡山・徳島・福岡
56円 11道県 北海道・長野・岐阜・三重・滋賀ほか
55円 3県 埼玉・千葉・愛知
54円 3都府県 東京・神奈川・大阪

注目すべきは、目安を上回る答申を出したのが地方の県に集中している点です。佐賀県は目安56円に対して9円上乗せの65円、鹿児島県は8円上乗せの64円、高知県と沖縄県は7円上乗せの63円を答申しました。一方でAランクの東京都・神奈川県・大阪府は目安どおりの54円にとどめています。地域間格差の是正が、目安の配分(Aランク54円に対しB・Cランク56円)だけでなく、地方審議会の判断によってさらに加速した構図です。

📊 このセクションの要点

令和8年度(2026年度)の地域別最低賃金は、答申段階の全国加重平均で1,177円、引上げ額56円となりました。目安制度開始以降で2番目の引上げ幅であり、前年度の66円と合わせた2年間の累計は122円に達します。引上げ額は54円から65円まで分散し、目安を上回る答申は九州・四国を中心とした地方の県に集中しました。

47都道府県別 最低賃金と発効日の全国一覧

厚生労働省が公表した令和8年度地域別最低賃金額答申状況をもとに、47都道府県の改定額・改定前の額・引上げ額・発効予定日を一覧に整理しました。発効日は答申公示後の異議申出の状況等により変更となる可能性があります。

都道府県 ランク 改定額 改定前 引上げ額 発効日(予定)
北海道 B 1,131円 1,075円 +56円 令和8年10月1日
青森 C 1,090円 1,029円 +61円 令和8年10月29日
岩手 C 1,090円 1,031円 +59円 令和8年12月1日
宮城 B 1,098円 1,038円 +60円 令和8年10月1日
秋田 C 1,090円 1,031円 +59円 令和8年10月14日
山形 C 1,092円 1,032円 +60円 令和8年10月30日
福島 B 1,094円 1,033円 +61円 令和8年10月16日
茨城 B 1,136円 1,074円 +62円 令和8年10月18日
栃木 B 1,125円 1,068円 +57円 令和8年10月1日
群馬 B 1,120円 1,063円 +57円 令和8年10月3日
埼玉 A 1,196円 1,141円 +55円 令和8年10月1日
千葉 A 1,195円 1,140円 +55円 令和8年10月1日
東京 A 1,280円 1,226円 +54円 令和8年10月1日
神奈川 A 1,279円 1,225円 +54円 令和8年10月1日
新潟 B 1,108円 1,050円 +58円 令和8年10月1日
富山 B 1,119円 1,062円 +57円 令和8年10月1日
石川 B 1,113円 1,054円 +59円 令和8年10月3日
福井 B 1,112円 1,053円 +59円 令和8年10月4日
山梨 B 1,113円 1,052円 +61円 令和8年11月1日
長野 B 1,117円 1,061円 +56円 令和8年10月2日
岐阜 B 1,121円 1,065円 +56円 令和8年10月1日
静岡 B 1,154円 1,097円 +57円 令和8年10月15日
愛知 A 1,195円 1,140円 +55円 令和8年10月1日
三重 B 1,143円 1,087円 +56円 令和8年10月1日
滋賀 B 1,136円 1,080円 +56円 令和8年10月3日
京都 B 1,180円 1,122円 +58円 令和8年11月16日
大阪 A 1,231円 1,177円 +54円 令和8年10月1日
兵庫 B 1,172円 1,116円 +56円 令和8年10月1日
奈良 B 1,107円 1,051円 +56円 令和8年10月4日
和歌山 B 1,101円 1,045円 +56円 令和8年10月3日
鳥取 C 1,090円 1,030円 +60円 令和8年10月3日
島根 B 1,092円 1,033円 +59円 令和8年10月10日
岡山 B 1,104円 1,047円 +57円 令和8年10月2日
広島 B 1,141円 1,085円 +56円 令和8年10月11日
山口 B 1,101円 1,043円 +58円 令和8年10月8日
徳島 B 1,103円 1,046円 +57円 令和8年11月1日
香川 B 1,092円 1,036円 +56円 令和8年10月1日
愛媛 B 1,093円 1,033円 +60円 令和8年11月1日
高知 C 1,086円 1,023円 +63円 令和8年10月29日
福岡 B 1,114円 1,057円 +57円 令和8年10月4日
佐賀 C 1,095円 1,030円 +65円 令和8年11月15日
長崎 C 1,087円 1,031円 +56円 令和8年11月2日
熊本 C 1,092円 1,034円 +58円 令和8年12月1日
大分 C 1,096円 1,035円 +61円 令和8年11月1日
宮崎 C 1,085円 1,023円 +62円 令和8年10月24日
鹿児島 C 1,090円 1,026円 +64円 令和8年10月25日
沖縄 C 1,086円 1,023円 +63円 令和8年12月2日
全国加重平均 1,177円 1,121円 +56円

最も高いのは東京都の1,280円、次いで神奈川県の1,279円、大阪府の1,231円と続きます。最も低いのは宮崎県の1,085円で、高知県と沖縄県の1,086円、長崎県の1,087円がこれに続きます。最高額と最低額の差は195円となり、前年度の203円から8円縮小しました。最高額に対する最低額の比率は84.8%で、前年度の83.4%から改善し、12年連続の改善となっています。

発効日は10月に再び集中した

令和7年度(2025年度)は、発効日が最長で翌年3月末まで分散し、給与計算や労務管理の実務に少なくない混乱を生みました。令和8年度(2026年度)はこの点が大きく改善しています。答申された発効予定日を集計すると、37都道府県が10月中、7府県が11月中、3県が12月という分布になりました。10月1日ちょうどの発効は15都道府県です。

最も遅いのは沖縄県の12月2日で、岩手県と熊本県が12月1日、京都府が11月16日、佐賀県が11月15日と続きます。年度をまたぐ発効がなくなったことで、令和8年度は年内にすべての改定が完了します。給与規程の改定や時給テーブルの見直しは、自社の事業場が所在する都道府県の発効日を起点に逆算して準備することが重要です。

注意

複数の都道府県に事業場を持つ企業は、事業場ごとに適用される地域別最低賃金と発効日が異なります。本社所在地の額だけで一括管理していると、発効日の早い県の事業場で最低賃金法違反が生じるリスクがあります。最低賃金法違反には50万円以下の罰金が定められており、差額の遡及支払いも当然に必要となります。

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📊 このセクションの要点

最高額は東京都1,280円、最低額は宮崎県1,085円で、その差は195円と前年度から8円縮小しました。最低額と最高額の比率は84.8%となり12年連続で改善しています。発効日は37都道府県が10月中に集中し、令和7年度に生じた年度をまたぐ分散は解消しました。

最低賃金はどのように推移してきたか

現在の水準がどれほど急な変化の結果であるかは、時系列で見なければ実感できません。全国加重平均の推移を平成25年度(2013年度)から令和8年度(2026年度)まで整理します。

年度 全国加重平均 引上げ額 引上げ率
平成25年度(2013年度) 764円 +15円 2.0%
平成26年度(2014年度) 780円 +16円 2.1%
平成27年度(2015年度) 798円 +18円 2.3%
平成28年度(2016年度) 823円 +25円 3.1%
平成29年度(2017年度) 848円 +25円 3.0%
平成30年度(2018年度) 874円 +26円 3.1%
令和元年度(2019年度) 901円 +27円 3.1%
令和2年度(2020年度) 902円 +1円 0.1%
令和3年度(2021年度) 930円 +28円 3.1%
令和4年度(2022年度) 961円 +31円 3.3%
令和5年度(2023年度) 1,004円 +43円 4.5%
令和6年度(2024年度) 1,055円 +51円 5.1%
令和7年度(2025年度) 1,121円 +66円 6.3%
令和8年度(2026年度) 1,177円 +56円 約5.0%

3つの局面に分けて理解する

この推移は、3つの局面に整理できます。第1の局面は平成27年度(2015年度)までで、引上げ額は年15円から18円、引上げ率は2%台にとどまっていました。第2の局面は平成28年度(2016年度)から令和4年度(2022年度)までで、政府が「年率3%程度」を目途として全国加重平均1,000円を目指す方針を掲げ、引上げ額は年25円から31円、率は3%台で推移しました。令和2年度(2020年度)に1円の引上げにとどまったのは、新型コロナウイルス感染症の影響による例外的な措置です。

そして第3の局面が、令和5年度(2023年度)以降です。43円・51円・66円・56円と、4年間で216円の引上げが行われました。平成25年度(2013年度)の764円と比較すると、13年間で413円、率にして54%の上昇です。特に直近4年間の年平均引上げ額54円は、平成25年度から令和4年度までの年平均約22円の2.5倍にあたります。

POINT

最低賃金の引上げは「毎年少しずつ」ではなく、令和5年度(2023年度)を境に明確に段階が変わりました。過去10年の平均感覚で人件費計画を立てている企業ほど、実際の負担との乖離が大きくなります。人件費予算は直近3年のトレンドで組み直す必要があります。

中小企業への影響は数字に表れている

日本商工会議所・東京商工会議所が令和8年(2026年)3月に公表した「中小企業における最低賃金の影響に関する調査」(回答企業3,780社)では、「最低賃金を下回る従業員がいたため賃金を引き上げた」と回答した企業が45.1%に達しました。この割合は2年連続で4割台となっています。同調査では、影響や負担感が地方において深刻であること、近年の大幅引上げにより都市部や正社員にも影響が拡大していることが指摘されています。

この「45.1%」という数字の意味は重いと理解する必要があります。最低賃金の改定は、もはや一部のパート従業員の時給を微調整すれば済む問題ではなく、中小企業の半数近くが賃金テーブルそのものの見直しを迫られる構造的な事象へと変わっています。最低賃金水準の従業員を引き上げれば、その上位層との賃金差が縮まり、賃金体系全体の再設計が必要になるためです。

📊 このセクションの要点

全国加重平均は平成25年度(2013年度)の764円から令和8年度(2026年度)の1,177円へと13年間で413円上昇しました。令和5年度(2023年度)以降の4年間だけで216円が上乗せされており、引上げのペースは明確に段階が変わっています。中小企業の45.1%が最低賃金を下回る従業員のために賃金を引き上げたと回答しており、影響は賃金テーブル全体に及んでいます。

補助金はなぜ「賃上げ前提」になったのか

中小企業向けの補助金が賃上げを要件として組み込むようになった経緯を理解するためには、政策の目的そのものが変わったことを押さえる必要があります。かつての補助金は「設備投資を促し、生産性を上げる」ことを目的としていました。現在の補助金は「生産性向上を通じて賃上げを実現する」ことを目的としており、賃上げが手段ではなく成果指標として位置づけられています

この転換は、最低賃金の引上げ政策と表裏一体です。政府は最低賃金を年5%前後で引き上げる一方、その原資を確保できない中小企業に対して、補助金・助成金・税制・融資を組み合わせた支援策を提供しています。裏を返せば、補助金は「賃上げの原資を先に渡すので、確実に賃上げを実行してほしい」という趣旨の制度へと性格を変えたということです。要件未達の場合に返還を求められるのは、この趣旨から導かれる当然の帰結として整理されます。

主要補助金の賃上げ関連要件

令和8年度(2026年度)時点で公募が行われている主要制度の賃上げ関連要件を整理します。なお、ものづくり補助金と新事業進出補助金は統合され、令和8年(2026年)6月29日に「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」として第1回公募が開始されています。

制度名 賃上げに関する主な要件 最低賃金との関係
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 付加価値額の年平均成長率+4.0%以上、1人当たり給与支給総額の年平均成長率+3.5%以上 事業場内最低賃金が地域別最低賃金より+30円以上高い水準
中小企業省力化投資補助金(一般型) 労働生産性の年平均成長率+4.0%以上、1人当たり給与支給総額の年平均成長率+3.5%以上 事業場内最低賃金が地域別最低賃金より+30円以上高い水準
中小企業成長加速化補助金 従業員1人当たり給与支給総額4.5%以上(今後5年程度の事業計画) 売上高100億円を目指す企業向けで、要求水準が最も高い
業務改善助成金 事業場内最低賃金を50円・70円・90円のいずれかのコースで引上げ 引上げ前の事業場内最低賃金1,050円未満で助成率4/5、1,050円以上で3/4
中小企業向け賃上げ促進税制 全雇用者の給与等支給額が前年度比+1.5%で15%控除、+2.5%で30%控除 くるみん・えるぼし認定で控除率5%上乗せ、控除しきれない額は5年繰越
先端設備等導入計画(固定資産税特例) 給与等支給額1.5%以上増加の表明で3年間1/2、3.0%以上で5年間1/4に軽減 賃上げ方針の従業員への表明が軽減幅の条件

この表から読み取るべき点が2つあります。第1に、「1人当たり給与支給総額の年平均成長率+3.5%」という水準が、主要な設備投資系補助金で共通の基準値になったことです。省力化投資補助金の公募要領では、この3.5%が「日本銀行が定める物価安定の目標+1.5%」として説明されています。名目賃金の伸びを物価上昇率+1.5%に固定するという設計思想が、補助金要件の形で制度化されたと整理されます。

第2に、事業場内最低賃金の「+30円」という基準は固定値ではなく、地域別最低賃金に連動して毎年切り上がるという点です。この構造こそが、実務上もっとも見落とされやすい論点です。

「+30円」は動く目標である

具体例で確認します。東京都で補助金を受給した企業が、令和8年度(2026年度)の地域別最低賃金1,280円に対し、事業場内最低賃金を1,310円に設定したとします。要件は満たしています。しかし翌年度、東京都の地域別最低賃金が仮に1,334円になれば、要件を満たすためには事業場内最低賃金を1,364円以上にしなければなりません。1年で54円、時給ベースで4.2%の引上げが自動的に求められることになります。

これを3年から5年の事業計画期間にわたって毎年繰り返します。年50円の引上げが5年続けば、事業場内最低賃金は250円上昇します。補助金の交付決定を受けるということは、国の最低賃金政策に自社の賃金の下限を連動させる契約を結ぶことと実質的に同義であると認識する必要があります。

注意

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、事業場内最賃水準要件が未達となった年度について、補助金額を事業計画年数で除した額の返還が求められます。5年計画で3,000万円の交付を受けた企業が1年度未達となれば、600万円の返還対象となる計算です。賃上げ要件は加点項目ではなく、交付後5年間続く義務であると理解する必要があります。

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最低賃金近傍の事業者には2つの特例が用意されている

最低賃金の引上げによって直接的な影響を受ける事業者に対しては、補助率や補助上限額を優遇する特例措置が設けられています。混同されやすいため、効果と要件を明確に区別して整理します。

特例名 効果 主な要件
地域別最低賃金引上げ特例 補助率を1/2から2/3へ引上げ 指定する一定期間において、改定後の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員数の30%以上である月が3か月以上あること
大幅賃上げ特例 補助上限額を100万円から2,000万円上乗せ 1人当たり給与支給総額の年平均成長率+6.0%以上、かつ事業場内最低賃金が地域別最低賃金より+50円以上高い水準

地域別最低賃金引上げ特例は、補助率が引き上がるうえに、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では基本要件から事業場内最賃水準要件が除外される扱いとなっています。最低賃金近傍の従業員を多く抱える労働集約型の事業者にとっては、活用価値の高い措置です。ただし、小規模企業者・小規模事業者や再生事業者など、もともと補助率が2/3である区分には適用できません。申請時には指定様式と賃金台帳による立証が求められるため、賃金台帳の整備状況が特例適用の可否を左右します

一方の大幅賃上げ特例は、補助上限額を引き上げる代わりに、賃上げ水準を大きく上乗せする措置です。未達の場合は上乗せ分の返還義務が生じます。補助上限額の引上げ幅だけを見て安易に選択すると、5年間にわたり年6.0%の賃上げを続ける義務を負うことになります。自社の付加価値額の伸びが人件費の伸びを上回る見通しが立たない限り、慎重な判断が必要です。

📊 このセクションの要点

主要な設備投資系補助金では、1人当たり給与支給総額の年平均成長率+3.5%と、事業場内最低賃金が地域別最低賃金より+30円以上という要件が共通基準となりました。+30円の基準は地域別最低賃金に連動して毎年切り上がるため、実質的には年50円規模の賃上げ義務を3〜5年間負うことを意味します。最低賃金近傍の事業者には補助率2/3への引上げ特例が用意されています。

賃上げの原資を確保するために使える施策

最低賃金の引上げに対応するための施策は、補助金だけではありません。厚生労働省と中小企業庁が令和8年(2026年)9月に公表した「最低賃金・賃金引き上げに向けた中小企業・小規模事業者への支援施策紹介マニュアル」では、助成金・税制・融資・取引適正化を組み合わせた支援体系が整理されています。壱市コンサルティングでは、補助金の申請可否を検討する前に、これらの施策の適用可能性を先に確認することを推奨しています。

施策 内容 活用の着眼点
業務改善助成金 事業場内最低賃金を50円・70円・90円引き上げ、設備投資等を行った場合に費用の一部を助成。助成上限額は引上げ額と対象労働者数に応じて30万円から600万円 どのみち引き上げざるを得ない賃金を、設備投資の原資に転換できる唯一の制度
キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース) 有期雇用労働者等の基本給を定める賃金規定等を3%以上増額改定した場合、1人当たり4万円から7万円を助成 1年度1事業所当たり100人まで複数回申請が可能
中小企業向け賃上げ促進税制 給与等支給額の増加額の一定割合を法人税額から控除。控除しきれない額は5年間繰越が可能 赤字でも繰越が使えるため、賃上げを実施した年度に必ず適用判定を行う
企業活力強化貸付(働き方改革推進支援資金) 事業場内最低賃金を2%以上引き上げる事業者に対し、基準利率から0.4%引下げの特別利率で融資 業務改善助成金の自己負担分の調達にも活用できる
賃上げ貸付利率特例制度 給与等支給額が直近決算期と比較して2.5%以上増加する見込みの事業者に、融資後2年間の利率を0.5%控除 既に増加している場合も対象となるため、決算後の借換時に確認する
労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針 発注者・受注者それぞれが採るべき行動を12の行動指針として整理。最低賃金の上昇率を交渉の根拠資料として用いることが明記されている 値上げ交渉の根拠として公表資料を使えることが公的に位置づけられている

このなかで実務的な優先度が高いのは、業務改善助成金と価格転嫁の指針です。業務改善助成金は、最低賃金の引上げによってどのみち発生する人件費増を、設備投資の実行に結びつけられる制度設計になっています。引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満であれば助成率は4/5に達します。ただし令和8年度(2026年度)の改定により、多くの県で最低賃金が1,085円から1,100円台に到達したため、助成率4/5の区分に該当する事業場は今後急速に減少します。この点は制度設計の見直しが必要な論点として指摘されています。

価格転嫁については、指針が「労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、最低賃金の上昇率など公表資料に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠のあるものとして尊重すること」と明記しています。自社の原価計算書を開示しなくても、公表された最低賃金の改定額を根拠に価格交渉を申し入れられるという点は、実務上の武器として認識しておくべきです。

補足

官公需についても、「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」において、年度途中の最低賃金額の改定を踏まえた予定価格の作成や、人件費単価が改定後の最低賃金額を下回った際の単価見直しが定められています。清掃・警備・庁舎管理等の役務契約を受託している事業者は、契約金額の変更について発注機関に確認を求めることができます。

📊 このセクションの要点

賃上げ対応の施策は、業務改善助成金・キャリアアップ助成金・賃上げ促進税制・低利融資・価格転嫁指針が体系として整備されています。業務改善助成金は助成率4/5の区分に該当する事業場が今後減少するため、活用するなら早い段階が有利です。価格交渉では最低賃金の上昇率を根拠資料として用いることが公的な指針で認められています。

最低賃金は今後どこまで上がるのか

政府目標は「2030年代前半」へ改められた

経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針2025)では、最低賃金について「2020年代に全国平均1,500円」という目標が掲げられていました。これに対し、令和8年(2026年)に取りまとめられた骨太方針2026では、「労働生産性の継続的な向上を図ることで、遅くとも2030年代前半のできる限り早期に全国平均1,500円を達成する」という表現に改められました。目標時期は実質的に後ろ倒しされた形です。

この変更の背景には、日本商工会議所をはじめとする経済団体から「2020年代に1,500円は実態と乖離している」との要望が繰り返し提出されてきた経緯があります。同時に骨太方針2026では、「持続的・安定的な物価上昇の下で、物価上昇を年1%程度上回る賃金上昇を賃上げのノルム(社会通念)として定着させる」という方針も示されています。

ここで冷静に判断すべきは、目標時期の後ろ倒しは引上げの停止を意味しないという点です。むしろ「物価上昇を年1%程度上回る賃金上昇」を社会通念として定着させるという方針は、物価上昇率が2%前後で推移する限り、名目3%前後の賃上げが常態として求められ続けることを意味します。補助金要件の「年平均成長率+3.5%」が物価安定目標+1.5%として設計されているのは、この方針と整合的です。

1,500円到達時期のシナリオ試算

令和8年度(2026年度)の全国加重平均1,177円から1,500円までは323円の開きがあります。引上げペース別に到達時期を試算すると次のようになります。以下は壱市コンサルティングによる単純試算であり、実際の改定は毎年度の中央最低賃金審議会および地方最低賃金審議会の審議によって決定されます。

シナリオ 年あたり引上げ額 1,500円到達時期
令和8年度と同ペースが継続 56円(約5.0%) 令和14年度(2032年度)ごろ
引上げ幅が緩やかに鈍化 45円(約3.8%) 令和16年度(2034年度)ごろ
政府が2030年度達成を目指す 約81円(約6.5%) 令和12年度(2030年度)

「遅くとも2030年代前半のできる限り早期に」という表現を額面どおりに受け取れば、現行ペースを維持した場合の令和14年度(2032年度)前後が、政策的に想定されている着地点と整理されます。逆に言えば、この先6年間にわたって年50円前後の引上げが続くことが前提となっているということです。

都道府県別に見ると、東京都は令和8年度(2026年度)の1,280円から年54円ペースで推移した場合、令和12年(2030年)度に約1,496円となり、全国平均に先行して1,500円水準に到達します。首都圏では、フルタイム換算の月給に置き換えると1か月160時間労働で約24万円が賃金の下限となる計算です。初任給や賃金テーブルの設計は、この水準を前提に組み直す必要があります。

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補助金制度は今後どう変わるか

最低賃金の引上げが継続することを前提に、補助金制度の設計がどう変化していくかを整理します。以下は制度の方向性についての見通しであり、確定した情報ではありません。

今後の見通し

賃上げ要件の基準値は据え置かれ、実質負担だけが重くなる:給与支給総額の年平均成長率+3.5%という基準は物価安定目標に紐づいた設計であるため、頻繁な変更は考えにくい状況です。一方で事業場内最賃水準要件の+30円は地域別最低賃金に連動するため、基準値が変わらなくても要求される絶対額は毎年上がり続けます。

最低賃金近傍の事業者への優遇が拡大する:補助率2/3への引上げ、優先採択、基本要件の一部免除といった措置は、最低賃金の引上げが続く限り政策的な合理性を持ち続けます。対象範囲や優遇幅が広がる方向が想定されます。

事後チェックが厳格化し、返還事例が増える:賃上げ要件は事業化状況報告によって毎年度確認されます。令和2年度(2020年度)以降に採択された案件の報告が本格化する時期に入っており、未達による返還の実例が積み上がる局面に差し掛かっています。

省力化投資への配分が一段と厚くなる:賃上げの原資を確保する最も直接的な手段は、労働投入量の削減です。人手不足と賃上げが同時進行するなかで、省力化・自動化・AI活用に対する予算配分は今後も拡大が見込まれます。

申請できる企業とできない企業の二極化が進む:賃上げ要件を5年間履行できる見通しが立たない企業は、補助金の申請自体を断念せざるを得なくなります。価格転嫁力と投資余力を持つ企業に支援が集中し、そうでない企業との差が開く構造が強まります。

この5点目は、政策の意図をどう読むかによって評価が分かれる論点です。令和8年度の目安答申をめぐっては、「生産性向上に取り組み、価格転嫁を進め、それができないのであれば事業再編や撤退を選択する」という方向性が政策の前提にあるのではないかとの指摘も出ています。補助金を「もらえるかどうか」で判断する段階は終わり、「自社が賃上げを続けられる事業構造か」を先に判定する段階に入ったと理解するのが実態に近い見方です。

📊 このセクションの要点

政府目標は「遅くとも2030年代前半のできる限り早期に全国平均1,500円」へ改められましたが、引上げの継続そのものは変わりません。現行ペースが続けば令和14年度(2032年度)前後に1,500円へ到達する計算となり、東京都は令和12年(2030年)度に先行して1,500円水準に達します。補助金制度は基準値を据え置いたまま実質負担が重くなり、事後チェックの厳格化と企業間の二極化が進む方向が想定されます。

経営者が今のうちに着手すべきこと

5年分の人件費を先に計算する

最初に行うべきは、今後5年間の人件費のシミュレーションです。自社が所在する都道府県の最低賃金が年50円ずつ上がると仮定し、最低賃金近傍で雇用している従業員の総労働時間を掛け合わせれば、人件費の増加額は概算できます。時給1,100円の従業員を10名、月160時間雇用している場合、時給が50円上がるだけで年間96万円の人件費増となります。5年間の累計では、単年度の増加が積み上がるため1,000万円を超える規模になります。

賃金台帳と就業規則を先に整える

地域別最低賃金引上げ特例や業務改善助成金の申請では、賃金台帳による立証が必須となります。月給制の従業員については、所定労働時間で除して時間当たり賃金を算出する必要があり、この計算の前提となる所定労働時間が就業規則や労働条件通知書に明記されていなければ立証ができません。支援策を使う前提として、賃金台帳・就業規則・労働条件通知書の整合が取れていることが必要条件です。

価格転嫁の交渉を制度として組み込む

労務費の転嫁に関する指針では、発注者側に対して定期的な協議の場を設けることが求められています。受注者側にも、発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示することが求められています。最低賃金の改定が公表される9月から発効前の10月にかけては、公表資料を根拠に値上げ交渉を申し入れる最も自然なタイミングです。年に1回の定例交渉として社内の業務プロセスに組み込むことが有効です。

補助金は「賃上げできる計画」から逆算して選ぶ

補助金の申請を検討する際は、補助上限額や補助率から入るのではなく、自社が3〜5年間、給与支給総額を年3.5%伸ばし続けられるかどうかを先に判定することが重要です。その原資は付加価値額の増加によって賄われる必要があります。人件費の伸び率を上回る付加価値額の成長計画が描けない場合、採択されたとしても返還リスクを抱え込むことになります。早い段階で認定経営革新等支援機関に相談し、計画の実現可能性を検証することが賢明です。

📊 このセクションの要点

最初に着手すべきは5年分の人件費シミュレーションです。支援策の活用には賃金台帳・就業規則・労働条件通知書の整合が前提となります。価格転嫁の交渉は最低賃金改定の公表時期に合わせて年1回の定例業務として組み込み、補助金は補助額ではなく賃上げを継続できる事業構造かどうかから逆算して選択することが重要です。

まとめ

ポイント 内容
全国加重平均1,177円 令和8年度(2026年度)の引上げ額は56円で、目安制度開始以降2番目の高さ。前年度の66円と合わせた2年間の累計は122円、率にして11.6%の上昇となる
発効日は10月に集中 37都道府県が10月中、7府県が11月中、3県が12月に発効予定。令和7年度に生じた年度をまたぐ分散は解消し、年内にすべての改定が完了する
地域間格差は12年連続で縮小 最高額の東京都1,280円と最低額の宮崎県1,085円の差は195円。最高額に対する最低額の比率は84.8%となり、地方の引上げ額が都市部を上回る配分が続く
補助金要件は連動して重くなる 事業場内最低賃金の「+30円」は地域別最低賃金に連動するため、基準値が同じでも要求される絶対額は毎年上昇する。1人当たり給与支給総額の年平均成長率+3.5%が主要補助金の共通基準となった
1,500円到達は令和14年度前後 政府目標は「遅くとも2030年代前半のできる限り早期」に改められたが、現行ペースが続けば令和14年度(2032年度)前後に1,500円へ到達する試算となる。東京都は令和12年(2030年)度に先行して到達する

よくあるご質問

Q1.令和8年度の改定額はいつから適用されますか

A1.都道府県ごとに異なり、令和8年(2026年)10月1日から12月2日までの間に順次発効する予定です。答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経たうえで、都道府県労働局長の決定により発効します。最も早いのは10月1日発効の15都道府県で、東京都・神奈川県・大阪府・埼玉県・千葉県・愛知県といった主要都府県が含まれます。最も遅いのは沖縄県の12月2日、次いで岩手県と熊本県の12月1日です。自社の事業場が所在する都道府県の発効日を確認し、給与規程の改定や時給テーブルの見直しを発効日から逆算して準備することが必要です。なお、発効日は答申公示後の異議申出の状況等により変更となる可能性があるため、都道府県労働局の公表を確認してください。

Q2.事業場が複数の都道府県にある場合、どの最低賃金が適用されますか

A2.地域別最低賃金は労働者が働く事業場の所在地を基準に適用されます。本社の所在地ではなく、それぞれの事業場が所在する都道府県の最低賃金が適用されるため、東京都に本社を置き宮崎県に工場を持つ企業の場合、工場の従業員には宮崎県の最低賃金が適用されます。実務上の注意点は、発効日も都道府県ごとに異なるという点です。10月1日に発効する事業場と12月に発効する事業場が混在するため、一律のタイミングで賃金改定を行うと、発効日の早い事業場で最低賃金法違反が生じます。最低賃金法違反には50万円以下の罰金が定められており、差額の遡及支払いも必要となります。複数拠点を持つ企業は、事業場ごとの発効日と適用額を一覧化して管理することが不可欠です。

Q3.最低賃金の計算に含めない賃金はありますか

A3.最低賃金の対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金に限られます。具体的には、臨時に支払われる賃金(結婚手当など)、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、所定労働時間を超える労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金)、所定労働日以外の労働に対する賃金(休日割増賃金)、深夜割増賃金、精皆勤手当・通勤手当・家族手当は、最低賃金の計算から除外されます。基本給と職務手当は対象に含まれます。手当を厚くして基本給を抑えている賃金体系の場合、除外される手当が多いために実質的な計算基礎が想定より小さくなり、最低賃金を下回るという事態が起こり得ます。改定を機に、賃金項目ごとの算入可否を確認することが重要です。

Q4.月給制の従業員が最低賃金を満たしているかはどう確認しますか

A4.最低賃金の対象となる賃金額を、1か月平均の所定労働時間で除して時間額に換算します。例えば基本給と職務手当の合計が18万円、1か月平均所定労働時間が170時間であれば、時間額は約1,059円となります。この額が事業場の所在する都道府県の地域別最低賃金を下回っていないかを確認します。1か月平均所定労働時間は、年間の所定労働日数に1日の所定労働時間を乗じ、12で除して算出します。この計算の前提となる所定労働時間が就業規則や労働条件通知書に明記されていない場合、そもそも判定ができません。補助金の地域別最低賃金引上げ特例や業務改善助成金の申請でも同じ換算が求められるため、就業規則の記載を先に整えておくことが実務上の前提となります。

Q5.補助金の「事業場内最低賃金+30円」はいつの最低賃金と比較しますか

A5.事業計画期間中の各年度について、その時点で適用されている地域別最低賃金と比較されます。この要件は「補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、毎年、事業場内最低賃金が補助事業実施場所の都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準であること」と定められており、達成状況は毎年度提出する事業化状況報告によって確認されます。申請時点の最低賃金に30円を加えた額を維持していれば足りるという理解は誤りです。地域別最低賃金が毎年50円を超えて上昇している現状では、事業場内最低賃金も同じペースで引き上げ続けなければ要件を満たせません。要件の具体的な判定基準や比較時点は制度・公募回ごとに定められているため、必ず該当する公募要領で確認してください。

Q6.賃上げ要件が未達となった場合、補助金はどうなりますか

A6.未達となった年度について、補助金額を事業計画年数で除した額の返還を求められます。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、事業場内最賃水準要件が未達の年度ごとに「交付額÷事業計画年数」の返還が規定されています。5年計画で3,000万円の交付を受けた企業が1年度未達となれば600万円が返還対象となる計算です。大幅賃上げ特例を適用した場合は、上乗せされた補助上限額分についても未達時の返還義務が生じます。天災など事業者の責めに帰さない事由がある場合の取扱いは公募要領に定めがありますが、業績不振を理由とする免除は原則として認められません。採択されることを目的に達成困難な賃上げ計画を作成すると、数年後に資金流出という形で跳ね返る点に注意が必要です。

Q7.地域別最低賃金引上げ特例はどのような企業が使えますか

A7.改定後の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員数の30%以上である月が、指定された期間内に3か月以上ある事業者が対象です。この特例に該当すると補助率が1/2から2/3に引き上げられ、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では基本要件から事業場内最賃水準要件が除外される扱いとなります。ただし、革新的新製品・サービス枠で申請する小規模企業者・小規模事業者や再生事業者、グローバル枠で申請する事業者は、もともと補助率が2/3であるため適用できません。要件は形式的・客観的に判断されるため、申請時に指定様式による確認書と該当する3か月分の賃金台帳の提出が求められます。月給制の従業員については時間額への換算が必要となるため、賃金台帳と就業規則の整備が実質的な前提条件となります。

Q8.大幅賃上げ特例は使ったほうが有利ですか

A8.補助上限額の上乗せ額と、5年間の追加人件費を比較して判断する必要があります。大幅賃上げ特例は補助上限額を100万円から2,000万円上乗せする措置ですが、その代わりに1人当たり給与支給総額の年平均成長率+6.0%以上、かつ事業場内最低賃金が地域別最低賃金より+50円以上という水準を満たす必要があります。年6.0%の賃上げを5年続けると、給与支給総額は約1.34倍になります。給与支給総額が年間1億円の企業であれば、5年目には3,400万円程度の増加となる計算です。上乗せされる補助額がこの人件費増を上回るかどうか、そして付加価値額がそれ以上に伸びる計画が描けるかどうかが判断の分かれ目です。上限額の大きさだけで選択すべき措置ではありません。

Q9.業務改善助成金と補助金は併用できますか

A9.同一の設備等を対象とする重複利用はできませんが、対象経費が異なれば組み合わせて活用できます。厚生労働省・中小企業庁の資料でも、助成金と補助金を組み合わせて利用することが可能である旨が示されています。例えば、大型設備の導入を補助金で行い、業務フロー改善のためのシステム導入を業務改善助成金で行うといった使い分けが考えられます。また、業務改善助成金の自己負担分を日本政策金融公庫の企業活力強化貸付(働き方改革推進支援資金)で調達するという組み合わせも想定されています。ただし、同一経費への重複計上は不正受給と判断されるため、経費区分と対象設備を明確に分けたうえで、それぞれの事務局に事前確認を行うことが必要です。

Q10.最低賃金の引上げに対応する体力がない場合、どうすればよいですか

A10.価格転嫁・省力化投資・資金繰り支援の3つを同時に検討することが現実的な対応です。最低賃金は法律上の義務であり、支払えないという選択肢は存在しません。まず着手すべきは価格転嫁で、労務費の転嫁に関する指針により最低賃金の上昇率を根拠資料として交渉できることが公的に位置づけられています。次に、労働投入量そのものを減らす省力化投資を検討します。資金繰りが逼迫している場合は、セーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)が最低賃金引上げなどの環境変化による一時的な業況悪化を対象としています。各都道府県のよろず支援拠点と働き方改革推進支援センターでは、これらの相談に無料で対応しています。判断を先送りせず、早い段階で専門家に相談することが賢明です。

賃上げを前提とした経営計画づくりをご支援します

補助金の採択可否ではなく、5年後に賃上げを続けられる事業構造かどうかから逆算します

壱市コンサルティングは、中小企業診断士が代表を務める認定経営革新等支援機関です。補助金の申請支援を入口としながら、賃上げ要件を5年間履行できる事業計画づくりと、その後の事業化状況報告までを一貫してご支援しています。約30名のパートナーコンサルタントが、業種と地域に応じた体制でお手伝いします。

📊 賃上げ要件を織り込んだ事業計画の策定

付加価値額と人件費の伸びを整合させ、返還リスクを抑えた計画を設計します。採択されることだけを目的とした計画は作りません。

📋 補助金・助成金・税制の組み合わせ設計

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金、省力化投資補助金、業務改善助成金、賃上げ促進税制などを、自社の状況に合わせて整理します。

🔄 事業化状況報告と賃上げ実績のモニタリング

交付後5年間の報告実務と、要件達成状況の年次チェックを継続的にご支援します。

💼 省力化・AI活用による人件費構造の見直し

労働投入量そのものを減らす投資計画と、AI導入による業務効率化の実行までをご支援します。

最低賃金1,177円は通過点です。5年後の水準を前提に、今から計画を組み直しましょう。

こんなお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください

  • ✅ 最低賃金の改定で人件費がどこまで増えるのか把握できていない
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  • ✅ 省力化投資やAI活用で人件費構造を見直したい

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