【令和8年度完全版】東京都の奨励金まとめ|手取り時間創出264万円・カスハラ対策40万円・年収の壁突破50万円など主要制度を徹底解説

東京都は、国の補助金・助成金とは別に、都内中小企業の雇用環境整備を後押しする独自の「奨励金」を多数実施しています。令和8年度(2026年度)は、最大264万円の「手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金」、一律40万円の「カスタマーハラスメント防止対策推進事業企業向け奨励金」、最大50万円の「年収の壁突破」総合対策促進奨励金など、賃上げ・人材定着・コンプライアンス対応に直結する制度が出揃いました。

東京都の奨励金の本質は、設備投資への補助ではなく、「人事制度を整備し、実際に運用した企業」に対して定額の現金が支給されるという点にあります。経費の立替負担がほとんど発生せず、審査勝負ではなく要件充足と先着・抽選で決まる制度が多いため、国の補助金とは攻略法がまったく異なります。一方で、就業規則の整備や都税の完納など共通の足切り要件があり、準備不足の企業は申請の土俵にすら立てないのが実態です。

本記事では、令和8年度に活用できる東京都の主要奨励金を一覧で整理した上で、各制度の支給額・要件・スケジュール、共通する申請要件、複数制度の併給戦略までを網羅しています。都内で事業を営む経営者の方はもちろん、顧問先への情報提供を検討されている士業・支援機関の方にも参考になります。

東京都の「奨励金」とは|補助金・助成金との違い

東京都の支援制度を理解するためには、まず「補助金」「助成金」「奨励金」という3つの言葉の使い分けを整理する必要があります。法律上の厳密な定義はありませんが、東京都の制度運用においては、おおむね以下のように整理されます。

区分 性格 典型例
補助金 事業計画を審査し、支出した経費の一部を補助。採択競争あり ものづくり補助金、新事業進出補助金、創業助成事業
助成金 要件を満たした経費支出に対し、助成率に応じて支給 DXリスキリング助成金、サイバーセキュリティ対策促進助成金
奨励金 制度整備・取組の実施そのものに対し、定額を支給。経費支出が原則不要 手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金、カスハラ防止対策奨励金

つまり奨励金とは、「お金を使ったことへの補填」ではなく「行動したことへのご褒美」という性格の制度です。就業規則に新制度を定めて運用する、社内マニュアルを整備する、手当を新設するといった、自社の労力で完結する取組に対して定額の現金が支給されるため、資金繰りに余裕のない中小企業でも取り組めます。

東京都の奨励金の多くは、東京都産業労働局が制度を所管し、公益財団法人東京しごと財団(都の政策連携団体)が申請受付・支給事務を担う体制で運営されています。窓口が都庁ではなく東京しごと財団である点を押さえておくと、情報収集がスムーズになります。

POINT

奨励金は「審査で勝つ」制度ではなく「要件を満たして枠を取る」制度です。事前エントリーの抽選・先着、予算上限による早期終了が頻発するため、国の補助金とは異なり「スピードと事前準備」が最大の攻略要素になります。

令和8年度 東京都の主要奨励金一覧

令和8年度(2026年度)に都内中小企業が活用を検討すべき主要な奨励金を一覧で整理します。

制度名 支給額 主な対象・テーマ 令和8年度の状況
手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金 最大264万円 柔軟な働き方・ライフステージ支援・エンゲージメント・賃上げ(15取組から2つ以上) 年10回募集・各回140社・抽選
カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金 一律40万円 カスハラ対策マニュアル整備+実践的取組(都条例対応) 令和8年度募集は6月予定(Jグランツ申請)
「年収の壁突破」総合対策促進奨励金 最大50万円 配偶者手当の見直し/社会保険加入促進手当の新設 令和8年5月18日〜令和9年2月28日受付
東京都働きやすい職場環境づくり推進奨励金 上限100万円/年度 育児・介護・病気治療と仕事の両立支援(コース選択制) 令和8年度実施中(事前エントリー制)
介護休業取得応援奨励金 休業日数に応じ支給+加算 従業員の介護休業取得・原職復帰の実現 令和8年4月1日〜令和9年3月31日(予算上限あり)
働く人の育業応援事業(旧:働くパパママ育業応援奨励金) 詳細公表待ち 男性・女性従業員の育業(育児休業)取得と職場環境整備 令和8年6月中に詳細案内予定(制度リニューアル)
不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金 募集要項による 不妊治療・不育症治療と仕事の両立支援制度の整備 事前エントリー制(最新情報の確認が必要)

このほか、業界団体向けのカスハラ防止対策奨励金や、新宿区のパパサポート企業奨励金・介護サポート企業奨励金など、区市町村が独自に実施する奨励金も存在します。都の奨励金と区市町村の制度は併給できるケースが多いため、本店所在地の自治体の制度も併せて確認することが重要です。

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手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金|最大264万円の本命制度

令和8年度の東京都の奨励金の中で、支給額・対象範囲ともに最大の本命となるのが本制度です。東京しごと財団が実施し、従業員が育児・介護・自己研鑽などに自由に使える「手取り時間」の創出、エンゲージメント向上、賃金引上げに取り組む企業を支援します。

支給額の構造

対象は都内で事業を営む中小企業等(常時雇用する労働者数300人以下)です。4カテゴリ・15の取組から2つ以上を選択して実施することが必須要件で、支給額は以下の構造になっています。

カテゴリ 支給額 取組例
「手取り時間」創出の取組 1項目10万円(上限50万円) フレックスタイム制、選択的週休3日制、多様な正社員制度、積立休暇制度など5取組
ライフステージを支援する取組 1項目10万円(上限30万円) 家庭応援特別休暇、慣らし保育・小1の壁を乗り越える勤務制度など4取組
エンゲージメント向上の取組 1項目10万円(上限40万円) 社外副業・兼業制度、社内メンター制度、従業員表彰・報奨金制度など5取組
賃金引上げの取組 1人12万円(上限12人・144万円) 時間当たり60円以上の賃金引上げ

最大の目玉は賃金引上げの取組です。時間当たり60円の賃上げは月160時間勤務の従業員で年額約11万5,200円の人件費増に相当し、1人当たり12万円の支給は初年度の賃上げ原資をほぼ全額カバーできる水準です。最低賃金の上昇対応や人材引き留めのための賃上げを予定している企業であれば、活用しない理由が見当たりません。

申請方式とスケジュール

令和8年度は年間10回・各回140社程度の事前エントリー制で、応募が予定数を超えた場合は抽選となります。エントリー通過後は専門家派遣を受けながら制度を整備・運用し、取組実績を報告して支給を受ける流れです。落選しても次回以降に再エントリーできるため、年度の早い回から継続的に挑戦することが受給確率を高めます。

カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金|一律40万円

令和7年(2025年)4月に全国初の「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されたことを受け、条例で規定する事業者の措置等を企業に浸透させるために設けられた奨励金です。カスハラ対策マニュアルの整備に加え、実践的な防止取組を実施した都内中小企業等に対し、一律40万円が支給されます。

支給要件の構造

要件は大きく2階建てです。第一に、募集要項所定の必須項目をすべて含み、条例への言及があるカスハラ対策マニュアルを作成・改定し、基本方針を社内および社外(店頭掲示・自社HP掲示・顧客先への周知等)に周知すること。第二に、カスハラを防止するための実践的な取組(研修の実施等、募集要項に定める選択肢)のうちいずれか1つ以上を実施することです。章立てだけの形式的なマニュアルは認められず、内容面の確認が行われます。

きわめて高い人気と「クリック合戦」の実態

本奨励金は定額40万円という分かりやすさから人気がきわめて高く、過去の受付回ではエントリー開始直後にアクセスが集中してシステムが停止し、受付が中止・延期される事態も発生しました。令和8年度の募集は6月に予定されており、申請は国の電子申請システム「Jグランツ」で受け付けられます。Jグランツの利用にはGビズID(gBizIDプライム)の取得が必須であり、ID発行には時間を要するため、募集開始を待たずに今すぐ取得手続きを進めておくことが事実上の必須準備です。

注意

本奨励金は受付回ごとにルールが変更されてきた経緯があります。マニュアルの必須項目・取組の実施時期の起算点(いつ以降の取組が対象か)は募集要項で厳密に定められているため、過去の要項やネット記事の情報で見切り発車せず、令和8年度の最新要項の公表を必ず確認してください。

「年収の壁突破」総合対策促進奨励金|最大50万円

パート従業員等の「年収の壁」による就業調整は、人手不足に悩む中小企業にとって深刻な経営課題です。東京都は、働く意欲のある女性が就業調整を行うことなく能力を発揮できる環境整備のため、本奨励金を実施しています。令和8年度の受付は令和8年(2026年)5月18日から令和9年(2027年)2月28日までで、申請は一事業主あたり同一年度1回限りです。

コース 内容
配偶者手当見直しコース 配偶者の収入要件がある配偶者手当(家族手当)について、①収入要件の撤廃、②廃止して他の手当への振替、③廃止して基本給への繰入れ、のいずれかを実施
社会保険加入促進コース 新たに社会保険の加入対象とする非正規雇用者が負担する社会保険料に関する手当等を新設
支給額 いずれかのコース実施で支給、両コースを実施した場合は50万円

本奨励金は単なる現金支給策ではなく、国の年金制度改革・社会保険適用拡大の流れと連動した制度です。社会保険の適用拡大は今後さらに中小企業に及ぶことが確実視されており、いずれ対応を迫られる賃金制度の見直しを、奨励金を受給しながら前倒しで実施できると整理するのが実態に近い見方です。

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東京都働きやすい職場環境づくり推進奨励金|両立支援で上限100万円

従業員の育児・介護・病気治療と仕事の両立を支援する制度を整備した中小企業に支給される、東京都産業労働局所管の奨励金です。実施するコース・事業を選択(複数選択可)し、取組事項の実施が確認できた場合に上限100万円が交付されます。

令和8年度はコース体系の見直しが行われており、Aコース①「育児と仕事の両立推進事業」に「子育て支援制度の整備」が新たな取組として追加され奨励金額が40万円に、Cコース「病気治療と仕事の両立推進コース」にも「基本方針社内ルールの策定」が追加され40万円となるなど、取組メニューと金額が年度ごとに改訂されています。一方、Aコース③「育児中の従業員のための多様な働き方整備事業」は令和7年度で終了しました。

本奨励金は事前エントリー(抽選)制かつ、コースごとに東京都主催の研修受講が求められるなど手続きの工程が多く、審査も厳格です。就業規則の規定内容に不備があれば減額・不支給となるため、取組の実施前に要件を精緻に読み込むことが不可欠です。なお、本事業に取り組む中小企業は、東京都中小企業制度融資「女性活躍推進融資(TOKYOウィメン・ビズ・サポート)」の対象となり、信用保証料3分の2補助や利率優遇を受けられるという副次的メリットもあります。

介護休業取得応援奨励金と育児関連奨励金の動向

介護休業取得応援奨励金

介護離職の防止と就業継続を後押しするため、従業員が介護休業等を取得し原職復帰を実現した都内中小企業等に対し、休業日数に応じて奨励金を支給する制度です。参考として令和6年度は、介護休業取得日数合計15日で27.5万円、合計31日以上で55万円という水準で運用され、近年は介護を支える周囲の職員を評価する制度の導入や同僚への応援手当の支給に対する加算項目も新設されています。令和8年度の事業実施期間は令和8年(2026年)4月1日から令和9年(2027年)3月31日までで、予算の範囲を超えた場合は期間内でも受付が終了します。申請期限は対象従業員の原職復帰から3か月経過した翌日から2か月以内と短く、復帰のタイミングから逆算した準備が求められます。

育業応援奨励金は令和8年度に制度リニューアル

男性従業員の育業(育児休業)取得日数に応じて高額を支給してきた「働くパパママ育業応援奨励金」(働くパパコースNEXT・働くママコースNEXT等の4コース体系)は、令和7年度をもって事業終了となりました。令和7年度は働くママコースNEXTが令和8年(2026年)1月30日に予算上限到達で受付終了するなど、最後まで高い人気を維持した制度です。

後継となる「働く人の育業応援事業」は令和8年度より実施され、令和8年(2026年)6月中に詳細が案内される予定です。育業支援は東京都の重点政策であり、制度の枠組み・支給水準がどう再設計されるかは、都内中小企業の人事戦略にとって最重要のウォッチ対象です。男性育休の取得義務化対応を控える企業は、詳細公表後すみやかに動けるよう、就業規則の育児介護休業規程を現行法令に適合させておくことが賢明です。

補足

このほか、不妊治療・不育症治療と仕事の両立支援制度を整備した企業向けの「不妊治療・不育症治療に係る職場環境整備奨励金」も実施されています。また、新宿区のパパサポート企業奨励金・介護サポート企業奨励金のように、区市町村が都の制度に上乗せする形で独自の奨励金を設けている例もあり、本店所在地の自治体の制度確認も欠かせません。

全制度に共通する申請要件と落とし穴

東京都の奨励金には、制度横断で共通する「足切り要件」が存在します。どの奨励金を狙う場合でも、以下の項目を満たしていなければ申請の土俵に立てません。

共通要件 実務上の注意点
就業規則の作成・労基署届出 常時雇用する労働者が10人未満の事業者でも届出が必要とされる制度が多い。労基署の受付印の日付が交付申請日より後のものは認められない
都税(法人都民税・法人事業税等)の完納 未納があると申請不可。クレジットカード納付は納税証明書の発行まで1か月程度を要し、その間は申請できない
労働関係法令の遵守 最低賃金以上の賃金支払い、固定残業代の適法運用(超過分の追加支給)等が確認される
過去5年間の不正受給歴がないこと 国・都道府県・区市町村・東京しごと財団等の助成事業における不支給決定・取消歴が対象。申請に関与した者も対象となる
風俗営業等を行っていないこと 風営法に規定する営業およびこれらに類する事業は対象外
要件の全期間充足 交付申請日から実績報告日に至る全期間を通じて要件を満たし続ける必要がある

とりわけ実務上のつまずきが多いのが就業規則です。「規則はあるが届出をしていない」「届出済みだが規定内容が古く現行法令に不適合」という企業は少なくありません。複数の奨励金を狙うのであれば、最初に就業規則を総点検し、土台を整えてから各制度にエントリーするのが正しい順序です。

奨励金の戦略的活用法|併給設計と年間スケジュール

複数制度の併給で100万円超を狙う

東京都の奨励金は、制度間の併給が認められているケースが多いのが特徴です。たとえば、働きやすい職場環境づくり推進奨励金と介護休業取得応援奨励金は併給可能とされています。ただし、同一の制度整備を複数の奨励金で重複してカウントすることは認められないのが原則です。たとえば不妊治療のための休暇制度を他制度の対象とした場合、働きやすい職場環境づくり推進奨励金の一部コースでは奨励対象外となるなど、取組の「切り分け」が併給設計の核心になります。

モデルケースとして、従業員30人の都内企業が令和8年度に「手取り時間創出奨励金で賃上げ10人+制度2取組(140万円)」「カスハラ防止対策奨励金(40万円)」「年収の壁突破奨励金・両コース(50万円)」を実現できれば、合計230万円の受給設計となります。いずれも経費支出をほぼ伴わない取組であり、これだけの規模の資金を制度整備の労力のみで確保できる自治体は、全国でも東京都以外にほぼ存在しません。

年間スケジュールから逆算する

奨励金は「思い立ったときに申請する」制度ではなく、エントリー時期が決まっています。年収の壁突破奨励金は5月18日受付開始、カスハラ防止対策奨励金は6月募集予定、手取り時間創出奨励金は年10回の回別エントリー、育業応援事業は6月中に詳細公表予定という配置です。年度前半(4〜7月)に情報収集と就業規則整備を終え、各制度のエントリー解禁に合わせて順次申請していくのが、令和8年度の最適な動き方です。予算上限による早期終了が常態化しているため、年度後半に動き出すのでは遅いという認識が必要です。

国の補助金・助成金との組み合わせ

奨励金は「制度整備」への支給であるため、経費補助型の制度と支援対象が重なりにくく、組み合わせの自由度が高いのが利点です。設備投資はものづくり補助金や省力化投資補助金、デジタル化はデジタル化・AI導入補助金、人材育成はDXリスキリング助成金や国の人材開発支援助成金、人事制度整備は東京都の奨励金、という目的別の制度ポートフォリオを組むことで、企業の成長投資全体の自己負担を最小化できます。ただし、同一経費・同一取組への重複受給は認められないため、併用設計は専門家の確認を経ることが賢明です。

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まとめ:5つのポイント

ポイント 内容
① 奨励金は「行動への定額支給」 経費支出への補助ではなく、制度整備・取組実施そのものに定額が支給される制度。立替負担がほぼなく、資金力に乏しい中小企業でも取り組めます。
② 令和8年度の本命は手取り時間創出奨励金(最大264万円) 15取組から2つ以上の選択制で、時間当たり60円以上の賃上げに1人12万円(最大144万円)。年10回・各回140社の抽選方式で、継続エントリーが基本戦略です。
③ カスハラ40万円・年収の壁50万円は時事対応型 都条例・社会保険適用拡大という、いずれ対応を迫られる課題への前倒し対応に現金が支給される構造。カスハラ奨励金はGビズIDの事前取得が事実上の必須準備です。
④ 共通の足切り要件は就業規則と都税 就業規則の労基署届出(10人未満でも必要な制度が多い)、都税の完納、労働法令の遵守、過去5年の不正受給歴なしが横断的な必須要件。最初に土台を整えることが先決です。
⑤ 併給設計と早期着手で年間200万円超も可能 制度間の併給が広く認められており、複数制度の組み合わせで200万円超の設計も現実的。予算上限による早期終了が常態化しているため、年度前半の着手が成否を分けます。

よくある質問(Q&A)

Q1.東京都の奨励金は、国の補助金と何が違いますか?

A1.最大の違いは「審査競争の有無」と「経費支出の要否」です。国の補助金(ものづくり補助金等)は事業計画の質を競う採択審査があり、経費を支出した後に一部が補助されます。一方、東京都の奨励金は要件を満たした制度整備・取組実施に対して定額が支給され、選考は主に抽選・先着で行われます。事業計画書の作り込みよりも、就業規則の整備状況や要件充足の正確性、エントリーのスピードが成否を左右します。経費の立替負担がほぼないため、キャッシュフローへの影響が小さい点も中小企業にとって重要な違いです。

Q2.どの奨励金から検討すべきですか?

A2.自社の経営課題から逆算するのが原則ですが、汎用性の観点では「手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金」が第一候補です。最大264万円と支給規模が最も大きく、15の取組メニューの幅が広いため、ほとんどの企業で自社に合う組み合わせを設計できます。次いで、接客・対人業務がある企業はカスハラ防止対策奨励金(40万円)、パート従業員を多く雇用する企業は年収の壁突破奨励金(最大50万円)、育児・介護世代の従業員が多い企業は働きやすい職場環境づくり推進奨励金(上限100万円)が有力です。複数制度の併給設計も視野に入れて検討することが重要です。

Q3.個人事業主や従業員数名の小規模企業でも申請できますか?

A3.制度によりますが、多くの奨励金は個人事業主を含む中小企業等を対象としており、小規模企業でも申請可能です。たとえば年収の壁突破奨励金は個人事業主を含む中小企業事業主が対象と明記されています。ただし注意すべきは就業規則の要件です。労働基準法上は常時10人未満の事業場に就業規則の届出義務はありませんが、東京都の奨励金では10人未満でも就業規則を作成し労基署に届け出ていることを要件とする制度が多くあります。小規模企業こそ、申請前の就業規則整備が最初の関門になると認識する必要があります。

Q4.複数の奨励金を同時に受給することはできますか?

A4.制度の趣旨・対象が異なる奨励金同士であれば、併給が認められているケースが多くあります。たとえば働きやすい職場環境づくり推進奨励金と介護休業取得応援奨励金は併給可能とされています。ただし、同一の制度整備・同一の取組を複数の奨励金で重複してカウントすることは認められません。不妊治療のための休暇制度を別の奨励金の対象とした場合、働きやすい職場環境づくり推進奨励金では当該制度が奨励対象外となる例のように、取組の切り分けに細かなルールがあります。併給を狙う場合は、各制度のQ&A・要項の併給規定を精読するか、専門家に設計を依頼することが確実です。

Q5.抽選や先着で落ちた場合、再挑戦はできますか?

A5.制度によります。手取り時間創出・魅力ある職場づくり推進奨励金は年間10回の募集があり、抽選に外れても次回以降の回に再エントリーできます。一方、年収の壁突破奨励金のように申請が一事業主あたり同一年度1回限りの制度や、予算上限到達により年度途中で受付終了となる制度(働くママコースNEXTは令和8年1月30日で受付終了)もあります。共通する原則は「早く動くほど機会が多い」ということです。落選期間中も就業規則整備や取組の社内検討を進め、当選後すぐ動ける状態を維持することが、結果として受給までの期間を短縮します。

Q6.GビズIDやJグランツとは何ですか?必ず必要ですか?

A6.Jグランツは国(デジタル庁)が提供する補助金・助成金の電子申請システムで、GビズID(gBizIDプライム)はその利用に必要な法人・個人事業主向けの共通認証アカウントです。カスハラ防止対策奨励金はJグランツによる申請のみで受け付けられ、来所申請は一切認められていません。働くパパママ育業応援奨励金でもJグランツ申請が利用されてきました。GビズIDプライムの発行には審査期間を要するため、奨励金の活用を少しでも検討しているなら、募集開始を待たず今すぐ取得手続きを行うことが鉄則です。一度取得すれば国の補助金申請にも使えるため、取得して損のないIDです。

Q7.奨励金は課税対象になりますか?会計処理はどうすべきですか?

A7.法人が受給する奨励金は、原則として法人税法上の益金(雑収入等)に算入され、課税対象となります。消費税については、対価性のない給付であるため不課税取引として処理するのが一般的です。受給額がそのまま手残りになるわけではなく、税引後の実質手取りで資金計画を立てる必要があります。また、支給決定から振込までには審査期間があるため、入金時期を保守的に見積もることも重要です。具体的な会計・税務処理は事業年度や企業の状況により異なるため、顧問税理士への確認を推奨します。

Q8.形だけ制度を導入して受給することはできますか?

A8.できませんし、絶対に行うべきではありません。東京都の奨励金は、就業規則への明文化に加えて実際の運用・周知の実績が確認されます。働きやすい職場環境づくり推進奨励金では就業規則の規定内容の不備により100万円の申請が40万円に減額された事例があるほど、審査は厳格です。さらに、実態を伴わない申請が不正受給と認定された場合、支給決定の取消し・返還にとどまらず、その後5年間にわたり国・都道府県・区市町村・東京しごと財団等の助成事業に申請できなくなります。この不利益は申請に関与した者にも及ぶため、企業の支援制度活用の道を長期にわたり閉ざす重大なリスクと認識する必要があります。

Q9.働くパパママ育業応援奨励金がなくなったと聞きました。今後どうなりますか?

A9.働くパパママ育業応援事業(働くパパコースNEXT・働くママコースNEXT等の4コース体系)は令和7年度をもって終了しましたが、育業支援そのものが打ち切られたわけではありません。後継の「働く人の育業応援事業」が令和8年度より実施され、令和8年(2026年)6月中に詳細が案内される予定です。従来制度は男性従業員の育業日数に応じた高額支給で人気を集め、予算上限による早期受付終了が繰り返されてきた経緯があります。後継制度も高い注目を集めることが確実であるため、男性従業員の育業取得を予定している企業は、育児介護休業規程の現行法令への適合を済ませた上で、詳細公表後ただちに動ける体制を整えておくことが賢明です。

Q10.奨励金を活用する上で、経営者として最も意識すべきことは何ですか?

A10.奨励金を「単発の臨時収入」ではなく「人事制度改革の実行予算」と位置づけることです。東京都の奨励金群は、賃上げ・柔軟な働き方・両立支援・ハラスメント対策という、いずれ法令や労働市場から対応を迫られるテーマに先回りした企業へ資金を供給する設計になっています。言い換えれば、奨励金の取組メニューは「これからの東京で人材に選ばれる会社の要件リスト」そのものです。受給額の最大化だけを追うのではなく、自社の採用力・定着率という経営指標の改善に取組を接続させること。それが、奨励金264万円・40万円・50万円という金額の何倍ものリターンを生む、本制度群の真の使い方です。

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