【令和8年度】事業承継を契機とした成長支援事業|一般コース800万円・販路開拓コース300万円を徹底解説
公益財団法人東京都中小企業振興公社(以下、公社)が実施する「事業承継を契機とした成長支援事業」は、後継者が事業を引き継いだことをきっかけに取り組む成長投資を支援する助成制度です。この事業には一般コース(助成限度額800万円)と販路開拓コース(助成限度額300万円)の2つが設けられており、両者の併願はできません。
令和8年度第2回の申請受付は、一般コースが令和8年(2026年)9月1日から9月30日午後4時まで、販路開拓コースが同年10月13日から11月12日午後4時までの予定です。いずれも年度内に残された最後の申請機会となります。
両コースは申請要件の骨格を共有しながら、対象となる取組と助成対象経費が明確に分かれています。どちらを選ぶかの判断を誤ると、そもそも経費が対象外になるという事態を招きます。本記事では、2つのコースの制度内容を横並びで整理し、共通要件・経費区分の違い・選択の判断軸・審査プロセス・実務上の注意点までを網羅的に解説します。
制度の背景と2コース体制が意味するもの
中小企業の事業承継は、長らく「引き継ぐこと自体」が政策課題の中心に置かれてきました。後継者不在による廃業の抑制、株式や事業用資産の移転にかかる税負担の軽減、M&Aによる第三者への引継ぎの促進といった施策が、国と自治体の双方で整備されてきた経緯があります。
問題はその後に生じました。承継そのものは完了しても、後継者が引き継いだのは既存の取引先と既存の商流であり、そのまま維持していては売上が先細りするという構造は何も解決していないためです。承継の完了は経営課題の終わりではなく、出発点であるという認識が、支援政策の側にも共有されるようになりました。
本事業の名称が「事業承継を契機とした成長支援事業」とされている点に、その政策意図が端的に表れています。承継を守りの局面としてではなく、後継者が新しい市場に打って出る攻めの局面として位置づける設計です。
2つのコースが用意されている理由も、この文脈から理解できます。後継者による成長投資には、「つくる」ための投資と「売る」ための投資という性質の異なる2つの局面があります。一般コースは設備投資や開発を含む新規事業展開そのものを支援し、販路開拓コースは開発を伴わない販路づくりに特化します。開発を必要としない小売業やサービス業の後継者にも門戸を開くために、後者が独立したコースとして設けられていると整理されます。
📊 このセクションの要点
本事業は、事業承継の完了を出発点と捉え、後継者による成長投資を後押しする東京都の助成制度です。設備投資や開発を伴う新規事業展開が一般コース、開発を伴わない販路づくりが販路開拓コースという役割分担になっています。
2つのコースの全体比較
まず、両コースの主要条件を横並びで確認します。
| 比較項目 | 一般コース | 販路開拓コース |
|---|---|---|
| 支援対象の取組 | 後継者による新規事業展開(新たな顧客・市場への展開、自社にない技術・設備の開発/導入) | 後継者による新規販路開拓(既存製品・サービスも対象) |
| 助成限度額 | 800万円(千円未満切捨て) | 300万円(千円未満切捨て) |
| 助成率 | 3分の2以内(賃金引上げ計画を実施した中小企業者は4分の3以内、小規模企業者は5分の4以内) | 3分の2以内(特例なし) |
| 経費区分の数 | 11区分 | 4区分 |
| 開発・設備投資 | 対象 | 対象外 |
| 販促費の単独申請 | 不可(上限200万円、既存事業に係る販促は対象外) | 可(上限なし) |
| アドバイザー派遣 | 2回必須(無料。助成金支払いの前提条件) | 募集要項に記載なし |
| 令和8年度第2回受付 | 令和8年9月1日〜9月30日16時(受付中) | 令和8年10月13日〜11月12日16時(予定) |
| 面接審査 | 令和8年12月11日〜12月17日のいずれか1日 | 第2回の日程は未公表(第1回は10月14日〜20日) |
| 交付決定 | 令和9年(2027年)1月上旬予定 | 第2回は未公表(第1回は令和8年11月上旬) |
POINT
一般コースと販路開拓コースは併願できません。また、いずれのコースも「本事業で1度も交付決定を受けていないこと」が申請要件であるため、一方で採択された事業者がもう一方に申請することもできません。実質的に一度きりの制度と理解する必要があります。
なお、一般コースには「交付決定された場合、事業者の名称、代表者名、所在地、助成事業(取組)内容等を公表する」旨が第2回募集要項に明記されており、申請をもって公表に同意したものとみなされます。取組内容の公表を前提に計画を組み立てる必要があります。
📊 このセクションの要点
一般コースは800万円・11経費区分・賃上げ特例あり、販路開拓コースは300万円・4経費区分・販促費の単独申請可という違いがあります。両コースは併願できず、一度交付決定を受けると再申請もできません。
両コース共通の申請要件|事業承継の証明が最初の関門
申請要件の骨格は両コースでほぼ共通です。実務上の最大の関門は「承継期間内に事業承継したことを証明できること」という要件になります。
承継期間の考え方
両コースとも、承継期間を令和3年(2021年)4月1日から本事業申請日の前日までと定めています。加えて、申請日の前日(基準日1)または令和6年(2024年)3月31日(基準日2)から遡って3年以内に事業承継が実施された場合のいずれかに該当することが要件とされています。
令和3年(2021年)4月1日より前に代表権の移転が完了している企業は、いかに優れた計画を持っていても申請できません。まず登記事項証明書で代表者変更の日付を確認することが、検討の第一歩となります。
事業承継の類型と証明書類
| 類型 | 満たすべき要件 | 主な証明書類 |
|---|---|---|
| 同一法人における事業承継 | 承継期間内に代表権の移転(後継者が代表に就任し、先代が退任)があること/後継者または後継者が代表を務める別法人が株主であること | 履歴事項全部証明書、閉鎖事項全部証明書、株主名簿 |
| M&Aにおける事業承継(事業譲渡) | 後継者が譲受会社の代表かつ株主であること/承継期間内に事業の全部または重要な部分の引継ぎがあったこと/承継期間内に譲渡会社が廃業していること | 譲受会社の履歴事項全部証明書、譲渡会社の閉鎖事項全部証明書、事業譲渡契約書等 |
| M&Aにおける事業承継(株式譲渡) | 後継者が譲受会社の代表であること/譲受会社側が申請者となること/承継期間内に譲渡会社の株式が移転していること/承継期間内に譲渡会社の代表者が退任していること | 譲受会社・譲渡会社双方の履歴事項全部証明書、株式譲渡契約書、株式移転計画書等 |
| 個人事業者の場合 | 承継期間内に代表権の移転(後継者が開業し、先代が廃業)があったこと/先代から後継者へ事業用資産が引き継がれていること | 後継者の開業届、先代の廃業届等、事業用資産の贈与契約書または売買契約書 |
補足
個人事業者の場合、代表権の移転だけでなく「先代から後継者へ事業用資産が引き継がれていること」を契約書等で示す必要があります。親子間の承継では贈与契約書を作成していないケースが少なくないため、早い段階で書面の有無を確認することが賢明です。また登記事項証明書は発行後3か月以内のものに限られる点にも注意が必要です。
その他の共通要件とコース間の差異
都内の中小企業者であり大企業が実質的に経営に参画していないこと、法人は都内に本店登記があること、後継者以外に黄金株(拒否権付種類株式)の付与がないこと、本事業で1度も交付決定を受けていないこと、同一テーマ・内容で他の公的助成を受けていないこと、事業税等を滞納していないことなどは両コース共通です。
一方で細部には差異があります。一般コースの第2回募集要項では、法人について本店登記に加えて「東京都内事業所で実質的に事業を行っていること」が明示され、申請書・ホームページ・名刺・看板や表札・電話連絡時の状況・従業員の雇用状況等から総合的に判断するとされています。また中小企業者の定義についても、一般コースでは建設業・運輸業・情報通信業が製造業と同じ区分(資本金3億円以下または従業員300人以下)に明記され、飲食業が小売業に含まれる形で整理されています。自社がどの区分に該当するかは、申請するコースの募集要項で確認する必要があります。
実施場所については、両コースとも東京都内のほか、神奈川・埼玉・千葉・群馬・栃木・茨城・山梨の7県に所在する事業所も認められます。ただしこの場合、申請受付開始日時点で東京都内に登記簿上の本店があることが条件です。
📊 このセクションの要点
申請の可否は、まず承継期間の要件で決まります。令和3年(2021年)4月1日以降に代表権の移転が完了していることを登記事項証明書で確認し、承継類型ごとの証明書類が揃うかを検証することが両コース共通の起点です。
一般コースの詳細|新規事業展開を800万円で支援
一般コースは、新たな顧客・新たな市場に向けた新規事業展開や、自社にない技術・設備の開発/導入による新規事業展開を対象とします。募集要項では、業務用空気清浄機の製造会社が家庭用の小型製品を開発するケース、印刷会社が専用加工機を導入してアクリルグッズを製作販売するケースなどが取組例として挙げられています。
一方、対象外となる取組も明示されています。売上の増加に直接貢献しない取組(内部システムの更新等)、単なる老朽化の復旧や既存設備の入替、既存製品の単なる改良は新規事業展開と認められません。
助成対象経費の11区分
| 経費区分 | 上限額 | 単独申請 |
|---|---|---|
| 原材料・副資材費 | なし | 可 |
| 機械装置・工具器具費 | なし | 可 |
| 委託・外注費 | なし | 条件付き(市場調査費のみの申請は不可) |
| 産業財産権出願・導入費 | なし | 可 |
| 規格等認証・登録費 | なし | 可 |
| 設備等導入費 | なし | 可 |
| システム等導入費 | なし | 可 |
| 専門家指導費 | なし | 不可 |
| 不動産賃借料 | なし | 可 |
| 販売促進費 | 200万円 | 不可 |
| その他経費 | 100万円 | 不可 |
注意
単独申請が認められていない経費区分同士を組み合わせても助成対象とはなりません。たとえば専門家指導費と販売促進費だけの計画は成立しません。設備等導入費や委託・外注費など、単独申請が可能な区分を計画の柱に据える必要があります。
機械装置・工具器具費、設備等導入費、システム等導入費、その他経費については、単価が税抜10万円未満の物品は対象外とされています。また汎用性があり目的外使用になり得るもの(テレビ、パソコン、文書作成・表計算ソフト等)の購入費は、いずれの区分でも対象になりません。システム導入に伴い購入するパソコンも同様です。
賃金引上げ計画による助成率の特例
一般コース特有の仕組みが、賃金引上げ計画による助成率の引上げです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特例助成率 | 中小企業者は4分の3以内、小規模企業者は5分の4以内 |
| 従業員要件 | 常時使用する従業員が1名以上いること |
| 賃上げ幅 | 賃金引上げ計画期間の給与等総額を、基準期間より2.0%以上増加させること |
| 最低賃金要件 | 助成事業実施場所内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること |
| 計画期間 | 助成事業完了日が属する月の翌月から起算した最大12か月間 |
| 小規模企業者の定義 | 製造業・その他は従業員20人以下、商業(卸売業・小売業)・サービス業は5人以下 |
| 交付方法 | 2回に分割(1回目は3分の2で算出、2回目は達成確認後に差額を交付) |
募集要項の例示では、助成対象経費600万円の中小企業者が特例助成率を適用した場合、1回目に400万円、賃上げ達成確認後の2回目に50万円が交付され、合計450万円となります。計画期間中に賃上げを達成できなかった場合は、既に交付された特例助成金の返還を求められる可能性がある点に注意が必要です。天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合等は返還が免除されることがあります。
アドバイザー派遣は2回必須
一般コースでは、採択された事業者に対して経営アドバイザーが計2回派遣されます。1回目は交付決定日からおおむね2か月以内、2回目は完了検査時です。派遣先は助成事業の実施場所であり、アドバイザーが現場や帳簿の確認、ヒアリングを行ったうえで助言を行います。この2回の派遣は助成金の支払いに必須とされているため、任意の付帯サービスではなく義務として位置づけられています。
📊 このセクションの要点
一般コースは11の経費区分で新規事業展開を800万円まで支援します。専門家指導費・販売促進費・その他経費は単独申請ができず、これらを組み合わせただけの計画も成立しません。賃金引上げ計画により助成率を4分の3から5分の4に引き上げる特例が用意されています。
販路開拓コースの詳細|売り方の転換を300万円で支援
販路開拓コースは、後継者による新規販路開拓を対象とします。最大の特徴は、対象商品が新製品・新サービスに限らず、既存製品・サービスも含まれる点です。募集要項では、服飾雑貨店が初めてフェアに出展して自社製品を紹介するケース、家具製造会社が既製の民芸家具を海外に販売するためのECサイトを制作するケースが取組例として挙げられています。
一方で、製品・サービスの開発に要する経費、改良に要する経費、会社を整備するための物品購入経費は対象外です。新しい商品をつくるための費用ではなく、既にあるものを新しい市場に届けるための費用が対象という整理になります。
助成対象経費の4区分
| 経費区分 | 内訳 | 上限額 |
|---|---|---|
| 市場調査費 | 顧客ニーズ・トレンド等の調査分析を外部事業者に依頼する経費 | 50万円 |
| 専門家指導費 | 外部専門家への謝金・交通費、外部研修の受講料等 | 50万円 |
| 販売促進費 | 印刷物製作費/動画制作費/広告掲載費/サイト制作・改修費/EC出店初期登録料/ポップアップストア出店費 | 上限なし |
| 展示会出展費 | 出展小間料/資材費/輸送費/通訳費/オンライン出展基本料 | 上限なし |
販路開拓コースでは単独の経費区分のみでの申請も可能です。展示会出展費だけ、あるいは販売促進費だけで計画を組むことができます。この点が、単独申請に制約がある一般コースとの実務上の大きな違いです。
なお販路開拓コースにのみ存在する費目として、ポップアップストア出店費があります。店舗(リアル・オンライン)を持つ事業者が実施するポップアップストアまたは期間限定ショップの不動産賃借料、内装工事費・装飾委託費、什器・備品のリース代が対象です。ただし出店場所は1カ所のみが助成対象であり、恒常的に催事出店や巡回販売を行っている場合は通常の営業活動とみなされて対象外となります。
Webサイト・EC・展示会の細かな線引き
サイト制作・改修費は、自社Webサイトを初めて制作する場合か、既存の自社Webサイト全ての一新に限られます。一新と認められるには全ページの変更が必要であり、複数サイトのうち特定のサイトのみの改修や別サイトの追加は対象外です。販売管理システムの搭載を含む場合、ドメイン取得費・レンタルサーバー費等の運用費も対象になりません。
EC出店初期登録料は、モール型ECサイトへの初回出店の初期登録料に限定されます。クラウドファンディングやフリーマーケットのサイトへの登録料、サイト構築の委託費は対象外です。展示会出展費については、商談を主たる目的とすること、助成対象商品が小間内の概ね8割程度を占めることなど10項目の条件を全て満たす展示会である必要があり、一般消費者向けの物販イベントは商談目的ではないため対象になりにくいと理解しておく必要があります。
📊 このセクションの要点
販路開拓コースは4つの経費区分で新規販路開拓を300万円まで支援します。既存製品・サービスの販路開拓でも対象となり、単独の経費区分のみでの申請も可能です。開発・改良費は対象外である点が制度の前提となります。
どちらのコースを選ぶか|ケース別の判断
判断の軸は明快です。新しいものをつくる要素があるかどうかで分かれます。想定される代表的なケースを整理します。
| 想定ケース | 適するコース | 理由 |
|---|---|---|
| 新規設備を導入して新商品を製造する | 一般コース | 設備等導入費・機械装置費は販路開拓コースの対象外 |
| 既存商品を初めて展示会に出展する | 販路開拓コース | 一般コースは既存事業に係る販促が対象外、かつ販促費の単独申請不可 |
| 新サービス用の店舗を借りて内装工事をする | 一般コース | 不動産賃借料・設備等導入費が使える |
| 既存商品でモール型ECに初出店する | 販路開拓コース | EC出店初期登録料の単独申請が可能 |
| 新商品を開発し、その販促も同時に行う | 一般コース | 開発費に加え、新商品に係る販促費(上限200万円)も計上できる |
| 既存サービスの海外市場を調査し多言語サイトを作る | 販路開拓コース | 市場調査費とサイト制作費の組合せで計画が成立する |
| 従業員の賃上げを予定しており投資額も大きい | 一般コース | 賃上げ特例により助成率が4分の3から5分の4に上がる |
POINT
令和8年度第2回では、一般コースの締切が9月30日、販路開拓コースの受付開始が10月13日と時期がずれています。一般コースの締切に間に合わない場合、販路開拓コースに切り替えるという選択は時間的には可能です。ただし取組内容そのものが販路開拓コースの対象に収まるかどうかを、経費区分の単位で確認する必要があります。
📊 このセクションの要点
開発や設備投資の要素があれば一般コース、既存製品・サービスの販路づくりに集中するなら販路開拓コースという判断になります。既存事業の販促は一般コースの対象外であるため、この点が実務上の分岐点になります。
審査プロセスと面接審査への備え
両コースとも、専門家による書類審査を経て、通過者に面接審査が実施されます。審査の視点は5つで、書類審査と面接審査で共通です。
| 審査の視点 | 問われている内容 | 申請書で示すべきこと |
|---|---|---|
| 新規性 | 新規事業の展開/新規販路の拡大を図った取組か | 現状の事業構成・販路構成と、取組後に加わるものの違いを具体的に対比する |
| 必要性・市場性 | 企業にとって必要な取組か、顧客・市場に需要がある取組か | 既存事業の縮小や取引先集中といった課題と、標的市場の規模・成長性を数値で示す |
| 実現性 | 経営体制、事業内容、実施体制、スケジュール、資金計画は実現可能か | 担当者の役割分担、月次スケジュール、自己資金の調達方法を明記する |
| 優秀性 | 事業者としての創意工夫が見られるか | 同業他社と同じ手法をなぞるのではなく、自社の強みに紐づいた独自の切り口を示す |
| 自己分析力 | 自社の現状、取り巻く状況を適切に理解しているか | 強みだけでなく弱み・制約条件も直視し、それを踏まえた計画であることを説明する |
面接は原則対面形式で1時間程度、出席できるのは事業者の代表者、役員・従業員に限り最大2名までとされています。顧問や経営コンサルタント等の同席、代理出席は認められておらず、これらの事実が発覚した場合は審査に重大な影響を及ぼすことがあると明記されています。面接会場への録音機器・撮影機器の持ち込みも禁止されています。
この制約が意味するところは明確です。後継者自身が、自分の言葉で計画を語れなければ通らないという設計になっています。支援者が申請書を整えるだけでは足りず、後継者が計画の背景・数字の根拠・実行体制を自分で説明できる状態まで仕上げておくことが求められます。
また面接日程は変更できず、指定の日時に出席しない場合は申請を辞退したものとみなされます。一般コース第2回では面接審査期間が令和8年(2026年)12月11日から12月17日と指定されており、申請時点でこの期間の予定を確保しておくことが必須です。
注意
両コースの募集要項には、申請受付期間内の申請であっても、申請額の集計等により予算に到達した場合には受理できない場合がある旨が明記されています。締切間際の申請は、この点だけでもリスクを負うことになります。
📊 このセクションの要点
審査は5つの視点で行われ、書類審査を通過した事業者には対面の面接審査が課されます。外部支援者は同席できないため、後継者本人が計画を説明できる準備が両コース共通の要件になります。
申請から入金までの流れと実務上の注意点
両コースとも、交付決定を受けただけでは助成金が支払われません。事業者が自己資金で助成事業を実施し、公社が適切な実施を確認できた範囲において交付される精算払いの仕組みです。
| ステップ | 実施主体 | 内容・目安期間 |
|---|---|---|
| 申請の提出 | 事業者 | Jグランツで電子申請(GビズIDプライムが必要) |
| 審査 | 公社 | 専門家による書類審査、通過者に面接審査(1時間程度) |
| 交付決定 | 公社 | 交付決定通知書をメールで送付 |
| 助成事業の実施 | 事業者 | 交付決定日から最大1年間で契約・実施・支払を完了(一般コースは1回目のアドバイザー派遣を受ける) |
| 実績報告 | 事業者 | 事業完了後、原則1か月以内 |
| 完了検査 | 公社 | 書類確認および実施場所の現地確認・原本照合(一般コースは2回目のアドバイザー派遣) |
| 額の確定 | 公社 | 完了検査から1か月程度 |
| 助成金の支払い | 公社 | 事業者の請求から1か月程度(賃上げ特例は達成確認後に2回目を交付) |
この流れから明らかなとおり、助成金が実際に入金されるのは交付決定から1年半以上先になる可能性があります。一般コースで800万円の助成を受けるには1,200万円の助成対象経費を、販路開拓コースで300万円の助成を受けるには450万円の経費を、先に自己資金で支出する必要があります。資金繰り計画を伴わない申請は、採択後にこそ苦しくなります。
交付決定前の発注は対象外
最も多い失敗が、交付決定を受ける前に発注・契約をしてしまうケースです。両コースとも助成対象期間は交付決定日から1年間であり、この期間内に契約・実施・支払が完了する経費のみが対象となります。交付決定を待たずに動いた経費は、内容がどれほど適切でも助成されません。展示会の出展小間料など一部には申込み・契約が助成対象期間前でも認められる例外がありますが、会期と支払いは助成対象期間内である必要があります。
見積書・支払方法・関連会社取引
一契約あたり税抜30万円以上の申請経費については見積書・仕様書・カタログ等の提出が必要であり、税抜100万円以上の申請経費については2社以上の相見積が求められます(展示会の出展小間料は相見積不要)。一般コースの「その他経費」については金額に関わらず全項目の見積書提出が必要です。
支払方法は助成事業者名義の口座からの振込払いが原則です。役員や社員個人の口座からの振込は対象外となります。現金払いは税抜10万円以下の契約に限られ、クレジットカード払いは法人カード(個人事業者は代表者の個人カード)であり、かつ口座からの引落日が助成対象期間内であることが必要です。手形・小切手・電子記録債権による支払いは一切認められません。
また両コースとも、親会社・子会社・グループ企業のほか、代表者の三親等以内の親族が経営する会社、自社と顧問契約・コンサルタント契約等を締結している会社との取引にかかる経費は対象外です。再委託が行われている場合も対象外となるため、発注先の選定段階で確認が必要です。
交付決定後の管理義務
助成事業に係る関係書類は、助成事業の完了した年度の翌年度から起算して5年間の保管義務があります。取得価格または増加価格が税抜50万円以上の財産については、実績報告書に記載のうえ公社配布のステッカーを貼って管理し、同じく5年間保存しなければなりません。この期間内に財産を処分する場合は、事前に財産処分承認申請書を提出して公社の承認を受ける必要があります。助成対象期間中および終了後概ね5年程度、公社職員等による立入調査や報告の求めに応じる義務も続きます。
📊 このセクションの要点
助成金は精算払いであり、事業者が先に全額を立て替えます。交付決定前の発注は対象外、税抜100万円以上の経費には相見積が必要、関連会社との取引は対象外という共通ルールを、計画段階から織り込む必要があります。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 2コースは併願不可 | 一般コース800万円と販路開拓コース300万円は同時に申請できず、一度交付決定を受けると再申請もできません。 |
| 承継期間が最初の関門 | 令和3年(2021年)4月1日以降に代表権の移転が完了していることが両コース共通の前提です。 |
| 選択の軸は「つくるか、売るか」 | 開発・設備投資があれば一般コース、既存製品・サービスの販路づくりなら販路開拓コースです。既存事業の販促は一般コースの対象外です。 |
| 後継者自身が語れること | 面接審査には外部支援者が同席できません。後継者が計画の根拠を自分の言葉で説明できる状態まで詰めておくことが不可欠です。 |
| 資金繰りの設計が前提 | 助成金は精算払いです。助成額の1.5倍にあたる経費を先に自己資金で支出する必要があり、資金計画とセットで検討することが重要です。 |
よくある質問
Q1.一般コースと販路開拓コースの両方に申請できますか。
A1.併願はできません。いずれか一方を選択する必要があります。公社の事業ページには、一般コースと販路開拓コースの併願はできない旨が両コースのページに明記されています。さらに両コースとも申請要件に「本事業で1度も交付決定を受けていないこと」が含まれているため、一方で採択された事業者がもう一方に申請することもできません。実質的に一度きりの機会と理解する必要があります。加えて、同一テーマ・内容で公社が実施する他の助成事業に申請していないこと、同一テーマ・内容で国・都道府県・区市町村等から助成等を受けていないことも要件です。ただし過去に本事業およびその他の事業で採択されたことがない場合は、他の助成事業への同時申請が可能とされています。どのコースを選ぶかは、取組内容が助成対象経費の区分に収まるかどうかで判断することが実務的です。
Q2.事業承継から何年経過していると申請できなくなりますか。
A2.令和3年(2021年)4月1日より前に事業承継が完了している場合、いずれのコースも申請できません。両コースの募集要項では、承継期間を令和3年4月1日から本事業申請日の前日までと定めています。加えて、申請日の前日(基準日1)または令和6年(2024年)3月31日(基準日2)から遡って3年以内に事業承継が実施された場合のいずれかに該当する必要があります。2つの基準日が設けられていることで、令和3年4月1日以降の承継であれば幅広く対象となる建て付けです。判断が難しいのは、代表者変更の登記日と実質的な承継時期がずれているケースです。公社が確認するのは登記等の客観的な書類であるため、履歴事項全部証明書の代表者変更日を基準に判断することになります。令和5年(2023年)1月1日より前に代表者変更を実施した場合は、前代表の退任を確認するために閉鎖事項全部証明書の提出が必要となる点にも注意が必要です。
Q3.既存商品の販路開拓だけでも申請できますか。
A3.販路開拓コースであれば申請できます。一般コースでは対象外です。販路開拓コースでは、対象商品は新製品・新サービスに限らず既存製品・サービスも含まれると明記されており、これがこのコースの最大の特徴です。一方、一般コースでは販売促進費について「既存事業に係る販売促進については対象外」とされており、さらに販売促進費の単独申請も認められていません。既存商品の販路を広げたいという相談は、販路開拓コースに振り分けるのが原則になります。ただし販路開拓コースでも「新規販路開拓」であることは必要であり、既に取引のある販路への通常の営業活動は該当しません。申請書では、現在の販路構成と本事業によって新たに開拓する販路がどう異なるのかを明確に対比し、標的とする顧客層・地域・チャネルを具体的に特定することが求められます。
Q4.一般コースで販売促進費だけの計画は立てられますか。
A4.立てられません。販売促進費は単独申請が認められていない経費区分です。一般コースの第2回募集要項では、専門家指導費・販売促進費・その他経費の3区分について単独申請が不可とされ、委託・外注費についても市場調査費のみでの申請はできないとされています。さらに「単独申請が認められていない経費区分同士を組み合わせても、助成対象とはなりません」という注記があるため、専門家指導費と販売促進費だけを組み合わせた計画も成立しません。原材料・副資材費、機械装置・工具器具費、産業財産権出願・導入費、規格等認証・登録費、設備等導入費、システム等導入費、不動産賃借料のいずれかを計画の柱に据える必要があります。なお一般コースの販売促進費には上限200万円、その他経費には上限100万円が設定されています。販促中心の計画を組みたい場合は、販路開拓コースの検討が現実的です。
Q5.賃金引上げ計画は必ず提出したほうが得ですか。
A5.助成率は上がりますが、未達成の場合は返還リスクを負うため、達成見込みを踏まえた判断が必要です。賃金引上げ計画を策定・実施した場合、助成率は中小企業者で4分の3以内、小規模企業者で5分の4以内に引き上げられます。要件は、常時使用する従業員が1名以上いること、賃金引上げ計画期間の給与等総額を基準期間より2.0%以上増加させること、助成事業実施場所内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にすることの3点です。計画期間は助成事業完了日が属する月の翌月から起算した最大12か月間となります。募集要項には、給与等総額を2.0%以上増加させたことが確認できない場合、期間を定めて助成金を返還していただく場合があると明記されています。また助成金の交付が2回に分割され、受け取り切るまでの期間が長くなる点も考慮が必要です。人員計画と資金計画の両面から、自社で判断することが求められます。
Q6.助成金はいつ受け取れますか。
A6.助成事業の完了・実績報告・完了検査を経た後の精算払いとなります。両コースとも助成対象期間は交付決定日から最大1年間で、この期間中に事業者が自己資金で契約・実施・支払を行います。事業完了後、原則1か月以内に実績報告書と経理関係書類を提出し、公社職員等による完了検査(書類確認および実施場所の現地確認・原本照合)を受けます。完了検査終了後、助成金の交付額が確定するまでに1か月程度、事業者が助成金請求書を提出してから振込までにさらに1か月程度を要します。助成対象期間を丸1年使う計画であれば、交付決定から入金まで1年半近くかかる計算になります。一般コースで800万円の助成を受けるには1,200万円、販路開拓コースで300万円の助成を受けるには450万円の経費を先行して支出することになるため、金融機関からの調達も含めた資金繰りの見通しを立てたうえで申請規模を決めることが重要です。
Q7.面接審査にコンサルタントが同席することはできますか。
A7.できません。出席できるのは事業者の代表者、役員・従業員に限り最大2名までです。両コースの募集要項には、顧問や経営コンサルタント等の同席、代理出席等はできないこと、これらの事実が発覚した場合は審査に重大な影響を及ぼすことがある旨が明記されています。面接は原則対面形式で1時間程度、日本語で行われ、申請書類以外の補足資料・サンプル品等の使用は必要最小限の範囲で認められます。面接会場への録音機器・撮影機器等の持ち込みも禁止されています。また面接日程は変更できず、指定の日時に出席しない場合は申請を辞退したものとみなされます。一般コース第2回の面接審査期間は令和8年(2026年)12月11日から12月17日と指定されているため、申請時点でこの期間はいつでも対応できるよう予定を確保しておく必要があります。
Q8.申請には何が必要ですか。GビズIDは事前に取得すべきですか。
A8.申請はJグランツによる電子申請のみであり、GビズIDプライムの事前取得が必須です。デジタル庁の案内では、gBizIDプライムアカウントの発行には書類に問題がない場合でも審査に1週間程度を要するとされています。申請受付開始後に取得手続きを始めると、締切に間に合わない可能性があります。申請書類としては、申請様式、2種類の誓約書(助成金申請に関する誓約書、反社会的勢力排除に関する誓約書)に加え、事業承継を証明する登記関係書類、法人であれば納税証明書・定款・直近2期分の確定申告書の写し、個人事業者であれば納税証明書等が必要です。登記事項証明書は発行後3か月以内のものに限られるため、取得のタイミングにも注意が必要です。一契約あたり税抜30万円以上の経費には見積書等、税抜100万円以上には相見積の提出が求められます。賃金引上げ計画を申請する場合は、賃金引上げ計画書と基準期間12か月分の賃金台帳の写しも必要です。
Q9.交付決定前に展示会の申込みをしてしまいました。対象になりますか。
A9.展示会の出展小間料については、申込み・契約が助成対象期間前でも対象となる余地があります。両コースの募集要項とも、出展小間料について会期および支払いが助成対象期間内であれば、申込み・契約は助成対象期間前でも可と明記されています。資材費についても、出展申込と一体で展示会主催者に申し込む場合に限り助成対象期間前の申込みが認められ、オンライン出展基本料も同様の扱いです。一方、それ以外の経費区分については、交付決定を受ける前に発注・契約をした場合は対象外となるのが原則です。募集要項には助成対象外となる頻出例として、交付決定前の発注・契約、納品日が助成対象期間を超えた場合、クレジットカードの引落日が助成対象期間を超えた場合が挙げられています。判断に迷うケースは、事務局に確認することが確実です。
Q10.申請手続きを専門家に依頼することはできますか。
A10.Jグランツ上の代理申請機能を用いた手続きが両コースで認められています。申請者がGビズID上で第三者に委任の依頼を行い、受任した行政書士等がJグランツ上で申請を作成する仕組みです。ただし申請の確認および提出は申請者自身が行う必要があり、申請受付以降の手続きも申請者自身が行うこととされています。また、助成対象経費に関与する事業者(外注先の事業者)およびその従業員、本助成事業の運営・審査に関わる者は代理申請を請け負うことができません。代理申請を行う場合は、公社ホームページからダウンロードした「同意書(代理申請用)」を作成し、Jグランツ申請フォームの指定箇所にアップロードする必要があります。なお、申請手続や書類作成代行に係る費用は専門家指導費の対象外とされている点にも注意が必要です。
承継後の成長投資を、コース選びから伴走支援します
「どちらのコースか」から決まる、一度きりの制度
壱市コンサルティングは、認定経営革新等支援機関として、中小企業診断士を中心に約30名のパートナーコンサルタントとともに、補助金・助成金の申請支援と経営の伴走支援を行っています。事業承継を契機とした成長支援事業は、一度交付決定を受けると再申請ができない制度です。だからこそ、コース選択の段階から取組内容と経費区分を突き合わせる必要があります。
📋 申請要件とコースの事前診断
登記事項証明書等で承継期間の要件を確認し、取組内容がどちらのコースの経費区分に収まるかを判定します。
📊 事業計画の設計
自社分析から標的市場の設定、収支計画まで、審査の5つの視点に対応した計画を組み立てます。
🏦 賃上げ計画と資金繰りの検討
特例助成率を狙うかどうかを、賃上げ達成見込みと精算払いの資金負担の両面から整理します。
🔄 面接審査の準備と実行支援
後継者ご自身が計画を語れる状態まで想定問答で準備し、交付決定後の証跡管理・実績報告まで支援します。
一般コースは9月30日まで、販路開拓コースは10月13日から。検討は今の時期が分かれ目です。
こんなお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください
- ✅ 一般コースと販路開拓コースのどちらを選ぶべきか判断できない
- ✅ 事業承継の時期が要件に合うかどうか分からない
- ✅ 計画したい経費が助成対象になるか確信が持てない
- ✅ 賃金引上げ計画を出すべきかどうか迷っている
- ✅ 承継後の成長戦略そのものから相談したい
