【最低賃金が上がる年に】賃上げ支援の地図|業務改善助成金・キャリアアップ助成金・賃上げ促進税制・補助金の要件を整理

最低賃金が上がる年は、時給を引き上げなければならない一方で、「どの支援制度から調べればいいのか」と迷う経営者の方が多くなります。助成金、税制、補助金は、窓口もルールもばらばらだからです。

賃上げを支える仕組みは、大きく4つの出口に整理できます。業務改善助成金(最低賃金の引上げと設備投資)、キャリアアップ助成金(非正規の正社員化・処遇改善)、賃上げ促進税制(給与を増やした分の税額控除)、そして補助金の賃上げ要件(設備投資の補助を受ける条件としての賃上げ)です。

本記事では、厚生労働省・国税庁・各補助金の公募要領をもとに、4つの出口の仕組みとつまずきやすい点、悩みからの選び方、専門家に任せる範囲を整理します。金額・助成率・賃上げ率は年度や回で変わるため、あえて数値は載せず、仕組みを中心に解説します。

まず結論|賃上げ支援は「4つの出口」で選ぶ

賃上げの支援制度は、制度の名前から探すと迷います。自社の悩みから逆引きするのが近道です。まず全体の地図を見てください。

出口 支えるもの 主な窓口
業務改善助成金 事業場内最低賃金の引上げと、生産性向上の設備投資 都道府県労働局
キャリアアップ助成金 有期・パート・派遣などの正社員化、処遇改善 都道府県労働局・ハローワーク
賃上げ促進税制 給与等の支給額を増やした分の法人税額の控除 税務署(確定申告)
補助金の賃上げ要件 設備投資の補助を受ける条件としての賃上げ 各補助金の事務局

📊 このセクションの要点

4つの出口は、目的(設備か人か税か)と窓口が違います。どれか1つに決めるのではなく、自社の悩みに合うものを選び、必要なら組み合わせます。

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最低賃金の仕組みと、事業場内最低賃金

地域別最低賃金は、公益・労働者・使用者の各代表でつくる最低賃金審議会で決まります。毎年、中央最低賃金審議会から地方の審議会へ引上げ額の目安が示され、地方の審議会が地域の実情に応じて審議します。決定の基準は、労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力の3つです。発効する日は都道府県ごとに異なるため、自社の事業場がある都道府県の額を必ず確認してください。

助成金や補助金では、事業場内最低賃金という言葉がよく出てきます。これは、その事業場で最も低い時給のことです。地域別最低賃金が上がれば、事業場内最低賃金も引き上げる必要が出るため、これが各制度に共通する基準になります。

言葉 意味
地域別最低賃金 都道府県ごとに定められた時給の下限
事業場内最低賃金 その事業場で働く人のうち、最も低い時給
両者の関係 下限が上がれば、事業場内最低賃金も引上げが必要になる

📊 このセクションの要点

制度を調べる前に、自社の事業場内最低賃金が、所在地の地域別最低賃金とどれだけ離れているかを確認しておきましょう。

出口1|業務改善助成金

業務改善助成金は、生産性向上に役立つ設備投資など(機械設備の導入やコンサルティングなど)を行い、あわせて事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、設備投資などにかかった費用の一部を助成する制度です。

流れは「計画→決定→実施→報告」

順番 やること
1 賃金引上げの計画と設備投資等の計画を立てて申請する
2 交付決定を待つ(決定前の賃上げ・発注は対象外)
3 計画どおりに賃上げと設備投資を実施する
4 実績を報告し、支給を受ける

額の決まり方

助成額は、設備投資などにかかった費用に助成率をかけた額と、助成上限額を比べて、いずれか安いほうです。助成上限額は、事業場内最低賃金の引上げ額と引き上げる労働者の人数で変わります。助成率は、引き上げる前の事業場内最低賃金の水準で変わります。具体の数値は年度で変わるため、厚生労働省の最新の案内で確認してください。

つまずきやすい点

場面 注意点
賃上げのタイミング 申請の前に賃金を引き上げると、その分は対象外
設備の発注 交付決定の前に発注すると対象外。決定のあとから
事業完了の期限 設備の納品、支払いの完了、賃金の引上げのすべてが期限までに必要
対象の労働者 雇用保険の被保険者で、雇入れ後6か月を経過した労働者などの条件がある
特例事業者 最低賃金が低い事業場や、物価高騰で利益率が下がった事業者は、上限や対象経費が広がる場合がある

注意

申請期間は年度ごと・都道府県ごとに決まっており、地域別最低賃金の発効日の前日などが期限になる場合があります。日付は必ず厚生労働省の最新の案内で確認してください。

📊 このセクションの要点

業務改善助成金は、先に賃上げ・発注をしないことがいちばんの注意点です。計画を立ててから動きます。

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出口2|キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金は、有期雇用・短時間・派遣といった非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善に取り組んだ事業主に助成する制度です。

分野 コース
正社員化 正社員化コース/障害者正社員化コース
処遇改善 賃金規定等改定コース(基本給の賃金規定等を改定して増額)/賃金規定等共通化コース(正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用)/賞与・退職金制度導入コース
年収の壁への対応 短時間労働者労働時間延長支援コース(新たに社会保険の適用となる際に、労働時間の延長等で収入を増加させる)

注意点は「計画を先に出す」こと

各コースの実施日の前日までに、キャリアアップ計画(労働組合等の意見を聴いて作成)を作成して提出する必要があります。取り組んだあとでは間に合いません。また、申請の様式や支給額は、各コースの取組を行った日で変わります。

注意

不正受給とされた場合は、不正に受給した助成金の全額返還に加え、延滞金と不正受給額の2割にあたる額の納付が求められます。また、不正受給の決定日から5年間は、雇用関係の助成金を受けられません。公表基準に該当すれば、事業主名などが公表されます。

📊 このセクションの要点

キャリアアップ助成金は、取組の前日までに計画を出すことが出発点です。コースによって要件が違うため、リーフレットで確認します。

出口3|賃上げ促進税制(中小企業向け)

賃上げ促進税制は、青色申告をしている中小企業者等が、国内の雇用者への給与等の支給額を前の事業年度より一定割合以上増やした場合に、増加額の一部を法人税額から差し引ける制度です。増加の割合が大きいほど控除の率が高くなる段階の仕組みで、子育てとの両立支援に積極的な企業(くるみん認定・えるぼし認定など)には上乗せがあります。

項目 中身
対象 青色申告書を提出する中小企業者等
要件 雇用者給与等支給額が、前事業年度より一定割合以上増加していること
控除 増加額の一部を法人税額から控除。増加の割合が大きいほど率が高い
上乗せ くるみん・えるぼしなど、子育てとの両立支援に積極的な企業への上乗せ
控除の上限 その事業年度の法人税額の一定割合。使い切れない分は、一定の条件で繰り越せる

毎年のように見直される

令和8年度の税制改正では、教育訓練費に係る上乗せ措置が廃止されました(令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用)。中小企業向けの措置は、この点を除いて現行制度が維持されています。適用期限が定められている制度のため、最新の要件と期限は、国税庁・中小企業庁の案内で確認してください。

補足

法人税額から差し引く仕組みのため、法人税を納めている黒字の会社に向いた制度です。赤字の会社は、控除を使える場面が限られます。控除額の計算と確定申告での手続きは、税理士にご相談ください。

📊 このセクションの要点

賃上げ促進税制は、給与を増やした会社が、確定申告で適用を受ける制度です。助成金のような事前の申請はありませんが、要件と手続きの確認は税理士と一緒に行うと確実です。

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出口4|補助金の賃上げ要件

設備投資の補助金には、賃上げが採択や交付の条件になっているものが多くあります。制度が違っても、骨格はよく似ています。

要件 中身
給与支給総額 1人あたりの給与支給総額を増やす目標を自分で決め、従業員に表明する
事業場内最低賃金 事業場内最低賃金を、地域別最低賃金より一定額高い水準にする
確認 毎年の事業化状況報告などで達成を確認される。賃金台帳の提出を求められる制度もある
未達のとき 返還を求められる。上限は交付された補助金の額

守れなかったときの扱い

場面 起きること
基本の要件 達成の度合いに応じて返還
最低賃金の要件 未達だった年数などに応じて返還
大幅賃上げの特例 補助上限額の引上げ分を返還(未達のときの返還が重い)
賃上げの加点を受けた場合 要件を達成できなかったときは、一定期間、中小企業庁所管の補助金への申請で大幅に減点(災害など正当な理由は除く)

赤字や天災などの場合に返還を求めない規定を置いている制度もありますが、赤字なら必ず免除という意味ではありません。判断は公募要領と事務局によります。賃上げ要件の率・上乗せ額・返還の式は制度と回で違うため、必ず申請する回の公募要領で確認してください。

注意

補助金で賃上げを約束するときは、最低賃金が毎年上がっていくことも見込んで、無理のない計画にしてください。

📊 このセクションの要点

補助金の賃上げ要件は、約束した数値を毎年報告で確認されるものです。特例や加点を使うほど、未達のときの影響が大きくなります。

悩みから逆引き|どの出口を見るか

やりたいこと 見る制度
時給を上げて、設備も入れたい 業務改善助成金
パート・契約社員を正社員にしたい キャリアアップ助成金(正社員化コース)
年収の壁に対応したい キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コースなど)
会社全体の給与を上げる(黒字) 賃上げ促進税制
設備投資で賃上げを実現したい 補助金(賃上げ要件に注意)

組み合わせることもできますが、同じ経費を別の制度で重ねて申請できない決まりが多くあります。併用を考えるときは、事前に各制度の要領で確認してください。

順番と注意|先にやらない

注意点 中身
取組の前に確認 賃上げ・設備の発注・契約は、制度の申請や決定のあとからが原則の制度が多い
賃金台帳を整える 事業場内最低賃金の確認は賃金台帳が基本になる
併用は事前に確認 同じ経費を重ねて申請できない決まりがある
勧誘に注意 厚生労働省は、国から委託を受けたと装って助成金を勧誘する事業者に注意を呼びかけている。「実質無料」などの話は疑う

専門家に任せる範囲

雇用関係の助成金について、労働・社会保険に関する法令に基づく申請書類の作成や提出の代行は、社会保険労務士法により、社会保険労務士の業務とされています。社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じて報酬を得て、業としてこれを行うことは禁止されています。なお、事業主ご自身が自社の申請を行うことは自由です。

内容 相談先
助成金の申請書類の作成・提出の手続き 社会保険労務士
賃金規定・就業規則の改定 社会保険労務士
賃上げ促進税制の控除の計算・申告 税理士
どの制度から見ればよいかの整理 当社(制度の整理のご相談)

📊 このセクションの要点

個別の手続きは専門家へ。当社は、どの出口から見ればよいかという制度の整理のご相談をお受けしています。

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よくある質問

Q1.最低賃金が上がれば、助成金は自動でもらえますか。

A1.いいえ、申請が必要です。助成金は、計画を立てて申請し、決定を受けて実施する仕組みです。特に業務改善助成金は、申請の前に賃金を引き上げたり、交付決定の前に設備を発注したりすると対象外になります。

Q2.すでに時給を引き上げたあとでも、業務改善助成金は使えますか。

A2.申請前に引き上げた分は対象になりません。事業場内最低賃金の引上げや設備投資は、これから実施するものが助成の対象です。引上げの計画と申請の順番は、厚生労働省の最新の案内で確認してください。

Q3.赤字でも賃上げ促進税制は使えますか。

A3.控除を使える場面は限られます。法人税額から差し引く仕組みのため、法人税額がない事業年度は、その事業年度に控除できる額がありません。繰越の条件などは、税理士にご確認ください。

Q4.助成金の申請は、自分でできますか。

A4.自社の申請を事業主ご自身が行うことは自由です。他人の求めに応じて報酬を得て、業として申請書類の作成や提出の代行を行えるのは、社会保険労務士です。個別の手続きは社会保険労務士にご相談ください。

Q5.補助金と助成金は併用できますか。

A5.同じ経費を重ねて申請できない決まりが多くあります。目的や対象経費が違えば併用できる場合もありますが、制度ごとに決まりがあります。併用を考えるときは、事前に各制度の要領で確認してください。

Q6.「実質無料で助成金が使える」と勧誘されました。

A6.受けないでください。厚生労働省は、国から委託を受けたと装って助成金を勧誘する事業者がいるとして、注意を呼びかけています。不正受給は、返還や公表、5年間の受給制限などにつながります。

制度の整理のご相談

賃上げの支援制度で迷ったら、まず制度の整理から

壱市コンサルティングでは、最低賃金の上昇に対応する賃上げの支援について、どの制度から見ればよいかを整理するご相談をお受けしています。

📋 制度の整理

業務改善助成金・キャリアアップ助成金・賃上げ促進税制・補助金の賃上げ要件の中から、自社の悩みに合う出口と、確認すべき順番を整理します。

🤝 士業事務所との連携

書類作成や手続きなど、士業の業務にあたる部分は、提携先の士業事務所と連携して対応します。

早い段階でご相談いただくほど、選べる対応は広がります。

こんなお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください

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