【経営者向け】労働分配率と付加価値額|人件費の割合を自社の数字で確認する
「人件費が重い気がするが、実際のところどうなのか」というご相談を、経営者の方からよくいただきます。感覚で話していると判断が遅れやすく、数字にすると対策が見えやすくなります。そのための数字が、付加価値額と労働分配率です。
先に押さえておきたいのは、労働分配率は、会社が生み出した価値のうち、どれだけを人件費に回しているかの割合だという点です。人件費を付加価値額で割って出します。ただし、何パーセントなら安心という正解はなく、自社の推移で読むのが基本です。
本記事では、付加価値額の考え方、労働分配率の計算と読み方、高いときの打ち手と賃上げとの関係、補助金や銀行の場面での使われ方、決算書のどこを見るかを整理します。解説動画の内容に沿った個別解説です。数字はすべて架空の例で、税務や賃金・社会保険の個別の判断には触れていません。
付加価値額とは|会社が生み出した価値
付加価値額とは、会社が自分で生み出した価値のことです。考え方としては、売上から、材料費や外注費など外部に払う費用を引いた残り、と説明されることがあります。この残りの中から、従業員の人件費、設備の費用、会社の利益がまかなわれます。この引き算の方式について、公的資料の原文は今回確認できていないため、本記事では考え方の紹介にとどめ、数字は出しません。
もうひとつ、足し算で出す式があります。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公募要領(中小機構)には、付加価値額を、営業利益、人件費、減価償却費を足したものとする定義があります。J-Net21の補助金の解説ページにも、同じ式が紹介されています。この定義は資料や制度によって違います。たとえば日本政策金融公庫の調査月報では、人件費、減価償却費、支払利息割引料、税引前当期純利益を合計した粗付加価値額が使われています。制度の要件で使う場合は、その制度の公募要領で定義を確認してください。
| 項目 | 内容 | F社の例(架空) |
|---|---|---|
| 営業利益 | 本業の利益 | 600万円 |
| 人件費 | 従業員・役員への支払い | 4,000万円 |
| 減価償却費 | 設備の費用の配分 | 400万円 |
| 付加価値額 | 3つの合計 | 5,000万円 |
以降の計算は、この足し算の式で統一します。例は架空の会社、社長のF社です。役員を含めて従業員が10人だとすると、1人当たりの付加価値額は500万円になります。自社で見るときは、1つの式と人件費の範囲を決めて、毎期、同じ式で比べることが大切です。
📊 このセクションの要点
付加価値額は、会社が生み出した価値です。足し算の式の例は、営業利益と人件費と減価償却費の合計です。定義は資料や制度で違うため、自社で式を決めて、同じ式で比べ続けます。
労働分配率の計算と読み方|F社は80%
労働分配率は、付加価値額のうち、どれだけが人件費に回っているかを示す割合です。計算は、人件費を付加価値額で割るだけです。日本政策金融公庫の調査月報でも、企業が生み出した付加価値は、人件費として従業員に分配されるか、利益として企業に蓄えられるかのいずれかで、労働分配率は労働側の取り分の割合と説明されています。
F社は、人件費4,000万円を付加価値額5,000万円で割って、労働分配率は80%です。生み出した価値の8割が人件費に回り、残り2割の1,000万円で、設備の費用と会社の利益をまかなっている状態です。
| 状態 | 読み方 | 注意して確認する点 |
|---|---|---|
| 高いとき | 付加価値額に対して、人件費の負担が重い | 高すぎると、利益や設備投資に回せなくなる |
| 低いとき | 利益を残しやすい | 低すぎる場合は、賃金水準が低く、人が集まらない・定着しない状況がないか |
何パーセントなら安心か
実は、これだという正解の数字はありません。日本政策金融公庫の調査月報では、卸売・小売業やサービス業は労働集約型で、人件費への配分が大きくなりやすいとされています。製造業、飲食店・宿泊業、運輸業のように、設備投資が重要な業種は、低くなりやすいとされています。また、一般に、景気後退局面で上昇し、景気拡大局面で低下する傾向があります。
| 場面 | 水準の傾向 |
|---|---|
| 人手が中心の業種 | 高くなりやすい |
| 設備が中心の業種 | 低くなりやすい |
| 景気が悪いとき | 上がりやすい |
| 景気が良いとき | 下がりやすい |
ですから、他社との比較より、まず自社の推移を見ることが大切です。本記事では、業種ごとの具体的な数値の目安は出しません。
📊 このセクションの要点
労働分配率は、人件費を付加価値額で割った割合です。F社は80%です。正解の数字はなく、業種と景気で水準が変わるため、他社より自社の推移で読みます。
高いときの打ち手|まず付加価値額を増やす
労働分配率が高いと感じたとき、いきなり人件費を削ることは、おすすめしません。まず考えたいのは、分母にあたる付加価値額を増やせないかです。打ち手は、単価を上げる、外注費や原価を見直す、生産性を上げる、の3つです。外注費や原価の見直しでは、品質が落ちないかも確認してください。
F社で効き方を比べます。売上は1億5,000万円で、買ってもらう数量は変わらない前提です。3%の値上げでは、売上が450万円増え、費用は変わらないので、付加価値額は5,450万円、労働分配率は約73%に下がります。外注していた仕事を自社でやる形に切り替え、外注費が500万円減り、人を1人増やして人件費が300万円増えるとします。この場合、付加価値額は5,500万円、労働分配率は約78%です。
| 打ち手 | 付加価値額 | 労働分配率 |
|---|---|---|
| 今のまま | 5,000万円 | 80% |
| 3%値上げ | 5,450万円 | 約73% |
| 外注の内製化 | 5,500万円 | 約78% |
人件費が増えても、付加価値額の増え方がそれより大きければ、労働分配率は下がります。人件費を削らなくても、割合を下げる道があるということです。
📊 このセクションの要点
労働分配率が高いときは、人件費を削る前に、分母の付加価値額を増やせないかを考えます。単価、外注費と原価、生産性の3つが手がかりです。
賃上げと労働分配率|付加価値額の増加とセットで考える
賃上げとの関係も整理します。F社が人件費を5%、つまり200万円増やす賃上げをしたとします。そのぶん営業利益が200万円減ると、付加価値額は5,000万円のままで、労働分配率は84%に上がります。一方、値上げや生産性向上で営業利益を600万円に保てれば、付加価値額は5,200万円になり、労働分配率は約81%で、ほとんど変わりません。
| ケース | 付加価値額 | 労働分配率 |
|---|---|---|
| 今のまま | 5,000万円 | 80% |
| 5%賃上げ・営業利益が減る | 5,000万円 | 84% |
| 5%賃上げ・営業利益を維持 | 5,200万円 | 約81% |
注意
この例では、足し算の式のため、営業利益が同じなら、人件費が増えると付加価値額も増えます。賃上げを続けるには、付加価値額を増やす取り組みがセットで必要になります。賃金の決め方や社会保険の手続きは、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
📊 このセクションの要点
賃上げで営業利益が減ると、労働分配率は上がります。営業利益を保てれば、割合はほとんど変わりません。賃上げは、付加価値額を増やす取り組みとセットで考えます。
補助金や銀行での使われ方と、決算書のどこを見るか
付加価値額は、いくつかの場面で出てきます。補助金には、付加価値額の増加を求める制度があります。ただし、付加価値額や人件費の範囲は制度ごとに違います。要件は、必ず、その制度の公募要領で確認してください。また、銀行に事業の状況を説明するときも、人件費を払ったあとにどれだけ稼ぐ力が残っているかを示す材料として使えます。これは一般的な使い方で、見る点は金融機関によって異なります。
| 項目 | 決算書のどこにあるか | 注意点 |
|---|---|---|
| 営業利益 | 損益計算書 | 本業の利益を示す |
| 人件費 | 販売費及び一般管理費の内訳と、製造原価報告書など原価の内訳 | 2か所に分かれていることがある |
| 減価償却費 | 販売費及び一般管理費の内訳と、原価の内訳 | 足し忘れると付加価値額が小さく出る |
| 従業員数 | 自社の台帳 | 1人当たりの付加価値額も出してみる |
人件費に含める範囲は資料によって違うので、自社で範囲を決めて、毎期そろえてください。個別の税務の扱いは、顧問の税理士にご確認ください。出した数字は、3期ぶん並べます。
| 期 | 付加価値額 | 人件費 | 労働分配率 |
|---|---|---|---|
| 2期前 | 4,600万円 | 3,500万円 | 約76% |
| 1期前 | 4,800万円 | 3,700万円 | 約77% |
| 直近期 | 5,000万円 | 4,000万円 | 80% |
F社は、付加価値額が4,600万円から5,000万円に増えています。ところが人件費が、3,500万円から4,000万円と、それ以上に増えているので、労働分配率は約76%から80%に上がっています。推移で見ると、人件費の増え方が付加価値額の増え方を上回っていることに気づけます。
📊 このセクションの要点
補助金で使う場合は、定義を公募要領で確認します。決算書では、人件費と減価償却費が2か所に分かれていることがあるため、足し忘れに注意します。3期ぶん並べて、推移で読みます。
まとめ|自社の数字を3期ぶん出す
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 1.付加価値額を知る | 足し算の式の例は、営業利益と人件費と減価償却費の合計。定義は資料や制度で違う |
| 2.労働分配率を出す | 人件費を付加価値額で割る。正解の数字はない |
| 3.推移で読む | 他社との比較より、自社の推移。業種と景気で水準は変わる |
| 4.まず付加価値額を増やす | 高いときは、人件費を削る前に、単価・外注費と原価・生産性を見直す |
中小企業診断士として相談を受けて感じるのは、人件費の重さを、感覚ではなく数字で話せる経営者は、判断が早いということです。難しい計算は要りません。決算書から営業利益、人件費、減価償却費を拾って、付加価値額と労働分配率を3期ぶん出してみてください。制度の整理でお悩みの場合は、事前相談をご利用ください。
関連記事
- 【経営者向け】損益計算書の見方|4つの利益で会社の稼ぐ力・銀行が見る点・値上げ判断
- 【経営者向け】損益分岐点の求め方|いくら売れば黒字か・値上げ・採用・設備投資の判断
- 【社長向け】貸借対照表の見方|銀行が融資で見る3つの数字
- 【社長向け】事業計画書の書き方|銀行に刺さる骨格は「数字の前の3ページ」
- 【経営者向け】補助金と助成金の違い|もらえる条件・審査・入金時期を整理
参考:日本政策金融公庫 調査月報「高付加価値を生むサービスとは-小さなサービス産業の経営戦略に学ぶ-」、中小機構 J-Net21「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(中小機構)。
制度の整理のご相談
制度の整理のご相談をお受けしています
壱市コンサルティングでは、制度の整理のご相談を、事前相談としてお受けしています。書類作成や手続きなど士業の業務にあたる部分は、提携先の士業事務所と連携します。
